【小松理佐子教授】しあわせを実感できる社会を実現するために

PROFILE

副学長(研究担当)/社会福祉学部 社会福祉学科 人間福祉専修 教授/大学院 委員長 福祉社会開発研究科 科長

小松 理佐子

専門分野

社会福祉学

キーワード

社会福祉運営管理, コミュニティケア,委嘱型ボランティア

小松先生が実践の中で感じてこられた社会福祉の課題、学部や大学院での教育活動や研究内容などについてお話を伺いました。

社会福祉経営論の導入

原田学長 小松先生は社会福祉学部でどのような科目を担当されてこられたのですか。

小松先生 もともと社会福祉原論の科目担当として採用されたのですが、社会福祉原論に関連した社会福祉経営論を担当できることが望ましいという採用だったんです。当時、聞きなじみのない科目名だったのですが、もともとの研究領域であった社会福祉における運営管理というテーマに基づき、これまで研究と講義を繰り返してきました。

原田学長 社会福祉原論や社会福祉経営論と聞くと難しそうな印象を持ちますが、具体的にはどのようなことを教えてらっしゃるのですか。

小松先生 福祉が必要な人にどうやって福祉を提供するのか、一言で言うとそのやりくりを考えるということになります。福祉が必要だと言っても、お金がなかったら続けることは難しいですよね。だからといって低賃金で職員を雇うことにも無理がある。制度やサービスをつくっても、担い手がいないとか、その時々の課題解決に向けたあり方について考えるテーマでもあります。

原田学長 当時の学生さんにはあまり馴染みのなかったであろう「福祉経営」の受け止め方とか反応について印象的なことはありますか。

小松先生 私が赴任した2003年当時の学生と今の学生では受け止め方が全く違うなと感じています。その当時はまだ福祉に経営を持ち込むなんて…という印象がとても強かったので、学生たちもどちらかというと批判的に受け止めている印象を持ちました。ですが、今の学生には福祉経営の領域は人気があります。近年は経営がなかったら福祉はやっていけないという風潮もあってか、学生たちも福祉と経営について真剣に考えるようになったというか、関心を持つような時代がようやく来たなと感じています。また、介護保険が始まった2000年当初は株式会社参入に対する反発が強かった時代です。それまでは福祉は非営利でという考え方が強かったのが、今では社会福祉の現場の人こそ経営を考えなきゃいけないという意識がとても強くなっていると感じています。

小松理佐子先生

最上町とのかかわり

原田学長 先生はもう一つの研究テーマで、中山間地域の地域福祉ということを研究されていますけど、福祉経営の領域は中山間地域とか過疎というキーワードにも関連があるのですか。

小松先生 私は本学に赴任したときから山形県の最上町というところに20年以上かかわり続ける機会をいただいています。過疎地域でもある最上町はその当時1万2,000人くらいの人口から現在では8,000人をきっています。訪れた当初、町の人たちからは「野菜をつくって売るだけではお金にならない。経営難になっている商店街をどうするかを教えて欲しい。福祉の人が来ても自分たちの役には立たない。」というご意見をいただきました。そのようなお話を聞くなかで、私の社会福祉は役に立たないということを痛感しました。その当時、私たちが国レベルで理論的、政策的に行ってきた社会福祉政策というのは、現実の過疎地域では合わないのではないかと実感させられました。ここに住む人たちの生活が成り立ち、しあわせを実感できる暮らしを送るために必要なことは何だろうと考え続けるなかで、今の社会福祉をどのように広げていけるか…。その人たちの生活に合わせた社会サービスや社会体制はどうしたらいいのか…。私の関心がどんどん広がっていくことで社会福祉の経営論という考え方につながっていきました。

最上町フィールドワークの様子

学びたいときが学びどき

原田学長 小松先生は大学院も担当されていますが、どのような科目を担当されているのですか。

小松先生 私は通信教育を担当しているので、ほとんどが働きながら学ばれている社会人の方々ばかりです。そういう方々と論文指導をしながら一緒に現場のことを考えています。最近では「福祉施設マネジメント論特講」を新規の科目で立ち上げ、今の福祉現場をどのように変えていくべきかということをテーマにしたディスカッションを現場の方々と行っています。

原田学長 学部生と社会人の大学院生、それぞれを教えられるお立場で感じられることはありますか?

小松先生 学部からストレートの卒業生が2名入ってきていますが、だんだんと社会人の方とも同じようなコメントに変わってきているのを見て、ちょっとびっくりしています。最初は理論的な学びを深めてきた学部生と現場での経験や感覚をもっている社会人ではちょっと違うだろうと思っていました。しかし、同じ環境で学びを深めていくことでどちらも伸びていく印象を受けています。22歳の学生と60歳以上の学生もいますが、一緒に学ぶことは悪くないなと感じています。やっぱり学びたいときに学ぶっていうスタイルは絶対に効果があると思うので、ストレートでも、2,3年してからでも、あるいはもっと後からでも、学びたいときが学びどきじゃないかなと思いますね。

福祉と他分野との融合

原田学長 現在、研究担当副学長という立場のお仕事も担っていただいていますが、これからの本学の研究の方向性や大切にしていきたいこと、取り組んでみたいことはありますか。

小松先生 本学は、福祉の総合大学として「福祉」を「ふくし」としてひらがなで表現していますよね。ちょっと曖昧な表現でもありますが、その「ふくし」という考え方というのは、先ほどの私の研究内容でいう『過疎地域で本当に必要なものは何なのか。それを追求したときに必要なもの。』それを考えることができる環境が、本学の学部として存在していることだと思います。人口減少や少子高齢化など、様々な社会状況の中で人の暮らしを支えられる研究の領域をつくりたいと考えています。また、総合型と漠然と言ってますが、社会福祉だけでも成り立たないし、それぞれの分野が単独では限界があるところを融合してどのように一つにしていくのか…。今の日本福祉大学にはそれを可能にする資源があり、有効活用することで力を発揮することができると考えています。先ほどの最上町の話ではないですが、いろいろなものがつながっていかないと生活や地域が成り立たないということと同じように日本福祉大学がこれまで培って築いてきたものをもっとつなげていく。そして、誰もがしあわせを実感できる社会になる。そんな社会づくりに寄与できる大学であり続けたいと考えています。

チャールズ・スタート大学(海外協定校)のジャパンスタディツアーの様子(東海キャンパス)

※2018年から日本福祉大学の海外協定校であるオーストラリアのチャールズ・スタート大学(CSU)と、研究や教育を通じた交流をしています。2023年11月には、ジャパンスタディツアーで10名の学生を受け入れ、合同授業などを行いました。