学童の安全登校に関する研究

Study on the crime prevention for the pupil’s attending school

研究代表者  田中  賢   (情報社会科学部 助教授)      
共同研究者  清永 賢二  (日本女子大学 人間社会学部 教授)
      吉田 健   (積水ハウス梶@総合住宅研究所)

研究期間 2004年6月〜2005年2月

 

Abstract
 学童が犯罪企図者に遭遇するなど危険に直面した際の危機回避能力について実験検証し,学童に対する防犯指導の在り方を試行した.実験は1.防犯ブザー実験,2.大声実験,3.逃走実験などである.結果:防犯ブザーは学童の装着箇所により効果が異なる.大声は周囲の暗騒音にかき消されるので防犯ブザーとの併用が必要.犯罪企図者より安全に逃走するためには犯罪企図者より4m以上距離をおく必要がある.本結果を踏まえ,東京都S区にて幼稚園教員および園児に対する防犯教育を実施している.

1.はじめに
 近年,犯罪の重大化,多様化が問題となっているが,特に学童の安全登校に関する社会的な関心は高い.「通学途中で子どもたちが犯罪被害に遭遇するかもしれない,ヒヤリ・ハッと体験」は,この2年間でみると,小学校では62%,中学校では70%の学校で学童・保護者から同報告があった.
小学児童および幼稚園児・保育園児(以下,園児とする)の安全確保には,教職員の努力だけでは十分ではないことは既に明白であり,周辺地域住民の見守り合いや保護者の協力が不可欠である.

2.研究の目的
本研究では学童の犯罪被害遭遇からの危機回避能力について実証検証する.その結果を踏まえて,小学児童および園児,更には保護者の方々への安全指導の在り方を考えることとする.

3.実験方法
A県K市に協力頂き,小学児童各学年男女1名ずつの計12名を被験者とした.また,実験内容により学童に心理的な問題が生じないよう小学校教員と共に教育学の専門家によるカウンセリングを慎重に行った.
(1)防犯ブザー実験
 犯罪企図者に襲われるなどの緊急事態に遭遇した際に,学童は防犯ブザーを操作することが可能なのかを実験検証する.

 

(1)−@ 学童に防犯ブザーを渡し,操作を修得させる(複数回,鳴らす・止める操作を行う).
(1)−A 学童に防犯ブザー・ホイッスルを装着させる.
登下校時の格好(ランドセルやその他の荷物を所持)にて,防犯ブザーを児童に任意の位置に装着してもらう.
(1)−B 学童に1列に並んで直径4m程度の円を描くように歩行してもらう.できる限り自然な状態での歩行を教示する.
(1)−C 円を描くように歩く学童の1m程度外周を大人が歩行する,同時に学童に襲い掛かり,ブザー操作の可否をビデオ及び観察調査により確認する.
(2)大声実験
学童への安全指導では,犯罪企図者に遭遇し危険を察知したら大声を出すことを教育している.本実験では,実際に学童はどの程度の発声が可能か実験を行い,大声発生教示の有効性を検証する.
(2)−@ 実験は屋外(公園)にて実施.発声源より20m,30m,40mの地点で観察者が測定する.
(2)−A 発声は「助けて」など意味のあるものと,「ワー,キャー」という意味性のないものの2種類とし,発声方法などは任意とした.
(2)−B 結果は,観察者の官能評価と騒音計による測定による.
(3)逃走距離実験
屋外で見知らぬ人と会話をする際には,手を2つ広げた程度の距離をおくことを小学校では指導している.これは約2〜3m程度距離があれば,万一襲われた際に安全距離まで逃走できると一般的に云われているためである.本実験ではこの通説の3mの距離が有効かを実験検証する.
(3)−@ 通常の短距離走のタイム計測を行う.次いで登下校時の格好(ランドセルやその他の荷物を所持)にて同一距離のタイムを計測する.
(3)−A 犯罪企図者役(成人男性)の短距離走のタイム計測を行う.
(3)−B 学童は登下校時の格好で犯罪企図者と一定距離をおいて向かい合う.同時にダッシュし犯罪企図者から逃走を試み追いつかれる位置を測定する.
(3)−B 距離を徐々に離し,安全距離まで逃走できる間隔を測定する.

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Copyright(C):2006, The Research Institute of System Sciences, Nihon Fukushi University