健康づくりに関わる社会システムの国際比較研究
(中間報告)

Comparative Study on the Social System Concerning Health-keeping

研究代表者 陳 立行(情報社会科学部 教授)
共同研究者 近藤 克則(社会福祉学部 教授)
   
研究期間 2004年度〜2006年度

 

Abstract
 本研究は「健康における不平等」現象が社会経済の諸因子だけではなく,それを社会システムの諸要素の相互作用の個人レベルでの表出として考えている.つまり,福祉政策の変化と体制の変革によって従来の社会システムには機能的障害が生まれ,それは個人の健康づくりに大きな影響を与えることである.
 この調査は2004年度から3年間を通じて行う予定で,今年は次のようなことについて研究を進めた.

  1. 中国における排除的福祉政策
  2. 福祉事業を考察する枠組みづくり

始めに
 1980年代以降,中国の市場経済への転換に伴い,社会主義体制に基づいた構築された福祉政策が次々に崩れてしまい,地域の格差,所得の格差も大きく広げてきた.これらの格差は社会生活の側面だけではなく,人々の健康づくりにおいても大きな歪みが生まれた.
健康づくりが個人の行動選択とよく捕らえられたが,その結果としての「健康における不平等」現象は最近社会経済の諸因子によるものとして注目されている.本研究は「健康における不平等」現象が社会経済の諸因子だけではなく,それを社会システムの諸要素の相互作用の個人レベルでの表出として考えている.つまり,福祉政策の変化と体制の変革によって従来の社会システムには機能的障害が生まれ,それは個人の健康づくりに大きな影響を与えることである.そのため社会システムの分析のアプローチにより個人の健康づくりのプロセスとその結果を解明することが必要となる.
「健康における不平等」の研究については,社会福祉学部の近藤克則先生はすでに日本での大型の調査を行った.本研究はその調査内容の一部を共通調査項目にして,中国の事情に関わる新たな研究内容を加え,転換期の中国における福祉政策の変化によって生じた所得の格差,社会資本の格差などの現状を明らかにする上で人々の健康づくりのプロセスと結果を解明する上で,共通の調査項目をベースにして中国,韓国,日本,などの国のデーターを用いて,東アジア諸国に対して比較研究を行うことが研究目的にある.

 

この調査は2004年度から3年間を通じて行う予定で,04年9月中国清華大学と東北財経大学の協力で,北京,大連,長春で高齢者施設を調査し,また,大学院生は協力して,訪問調査の方法で三つの都市で,170部のアンケート予備調査表を回収した.回収したアンケート調査表の中,健康状態と介護状態に関する項目に無回答の多すぎるため,調査表の修正を行ううえで,本格のアンケート調査をこれから実施すると考えている.
今年度文献調査,関連政府機関に対する訪問,高齢者施設調査を通じて,以下のようなことについて研究を進めてきた.

1,中国における排除的福祉政策
計画経済のもとで,中国社会において都市社会に限定された国家を主とした排除的福祉を実施した.市場経済への展開に伴い,また沿海地域へ傾斜する開放政策により,地域間の経済の格差がますます広がった.その結果,計画経済から残された都市と農村との格差,また,開放政策による地域間の格差,さらに,特定の地域における階層の間の所得の格差という三つの格差が中国の高齢者福祉事業を考察する際,重要な前提となっている.約一億の高齢者人口を抱える中国の高齢者福祉事業には包括的(inclusive)理念よりも,寧ろ排除的(exclusive)的な手法が取られ,政策上にも大きな不公平が存在している.

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Copyright(C):2006, The Research Institute of System Sciences, Nihon Fukushi University