このような背景により,中国の高齢者の健康づくりと福祉事業を考察する際,これまで西欧諸国と日本のような国家主導的画一な福祉モデルの構築は現実的に不可能と言わざるを得ない.国は計画経済時期の排除的福祉政策を通じて異質的な資源事業を個人に提供し,その結果は福祉事業に大きな格差と不公平が生じた.

2,福祉事業を考察する枠組みづくり
排除的福祉政策と市場経済により生じた所得の格差の拡大によって,高齢者の福祉事業が内容にせよ,担い手にせよ,多様性が呈している.それを考察するため,福祉ニーズとそれらのニーズに満たす担い手という二つの要素を取り上げ,中国の高齢者福祉事業の現状を把握する.

 

図2の縦軸は生存的欲求から社会的欲求まで,「生存の権利」のベーシックなニーズから,「自己実現の欲求」の継続的なニーズ,さらに「生活質の保障」などのニーズを表れ,横軸以上ニーズに満たす福祉サービスを提供する担い手を表れ,中の斜線は正常分布と表れている.
これまで,日本では高齢者福祉事業の担い手と言えば,国家・地域社会・家族という三役が重要な役割が果たしていることがよく語られている.最近介護保険の導入について,市場の参入と役割が大きく増大している.ところが,中国においては,聞き取り調査と施設訪問の結果を見れば,これまで,中央政府は基本方針を出したが,統一的福祉政策はまだない.福祉事業は地方政府に任せる状態である.地方政府は「三無」(無収入,無子女,無就労能力)の高齢者に「生存の権利」のベーシックなニーズを満たすことに責任を持っているが,それ以外の高齢者たちの福祉ニーズはおもに市場を通じて満足されていることが現状である.NGOとNPOが活動しているが,量としてまだまだ足りなく,多くの高齢者のニーズは,営利的シルバー派遣センター,「自立生産―自立養老」様式の村の老人施設,私的経営する老人施設など市場と深く関わっている施設によって満たされている.つまり,中国における高齢者福祉事業が赤信号の「是正ゾン」に陥ってると言える.

3,今後の研究内容
これから,予備調査の結果を踏まえ,修正してから,アンケート調査を実施するとおもに,複数の地方政府の福祉政策と取り組みを考察する上で,次の内容について,研究を進める.

  • 基本ゾンの確保に必要な要素とその働き方
  • 中国に理想ゾンの達成の可能性
  • 是正ゾンに修正するブレーキの機能の所在
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Copyright(C):2006, The Research Institute of System Sciences, Nihon Fukushi University