合肥,北京でベンチャー企業を訪問
〜目立つ若い企業家の奮闘〜
「中小企業の発展に関わる社会システムに関する国際比較研究」チーム

情報社会科学部 助教授 陳 立行


 本研究の目的は,主に開発途上国における中小企業の発展について,社会システムとそのメカニズムの分析を通じて解明し,その国の「自立型経済発展モデル(単に外貨に依存するのではなく,中小企業やベンチャー企業の振興をはじめ,自国の力で経済発展をすること)」の可能性を探ることである. 2000 年7 月28 日,本研究の調査対象国の一つである中国の企業家たちに直接ヒアリング調査を行うため,私と近藤悟教授(情報社会科学部)は上海経由で合肥市へ入り,そこで先に中国入りしていた岩田龍子教授(経済学部)と合流した. 合肥は安徽省の省庁所在地で,人口約200 万の大都市である.これまで経済的に立ち遅れている,と言われていたが,車中から建ち並ぶ高層ビル,鮮やかなネオン,悠々と闊歩する若者たちの様子などを見ると,遅れているという言葉とは程遠いものであった.郊外にいっても日本で買える日常品はたいてい何でも揃い,豊かな印象を受ける.衣服のデザインも非常によくなり,庶民でも手の届く価格で売られている. 合肥ではまず高新技術産業開発区の中にある「中小企業創業センター」を訪ね,政府の支援策と企業の創業過程について聞き取り調査を行った.センターの建物には約40 社が入っているが,既に満杯となっているため,新たに40000 ・に及ぶ,専業園,大学園,留学生園,農業園から成る建物を作った.専業園は情報通信企業,バイオロジー関連企業に,大学園には大学や研究機関の科学技術者に,留学生園は海外から帰国したり,投資したりする人に,農業園には農業技術企業に提供されている.新しい建物には約80 社が入っており,センター内のこれら約120 社はベンチャー企業として育ちつつある.全製品の売上は約1 億元とのことである.

センター内では2 社を訪れた.1 社は温度センサーのメーカーで,創業者は中国科学技術大学博士課程中退の31 歳の青年である.この会社の売上は,97年には20 万元だったのが,98 年80 万元,99 年100 万元で,2000 年には500 万元と見込まれており,いわば成功した企業である.来年はセンターを出て,開発区に大きな工場を立てる予定とのことである.もう1 社は医療機器メーカーで,創業者はフランス帰りの,博士号をもつ38 歳の青年である.昨年センターに入り,今年の4 月,市場に製品出荷を開始.基本的に注文生産であるため,今年の実績はまだ不明のようである. センター以外の一般企業についても,不動産を中心とする企業集団と,村弁企業を1 社ずつ訪問した.前者の企業集団の創業者は,屋台でのお茶の販売から始まって,エアコンの販売・アフターサービス,不動産開発まで展開し,成功した人物である.一方後者の村弁企業の創業者は,村の多くの農家を企業集団までに発展させることに成功した.彼はそのノウハウと収益のほとんどを村全体の工業化に役立てたため,村は安徽省で最も豊かな村にまで発展した. 合肥の調査後は北京に向かった.北京空港の駐車場に入ると,自家用車で満杯になっている.北京経済貿易大学金融学部の陳捷助教授が北京製のジープをレンタルして我々の調査に協力して下さった.陳助教授によると,「北京では車のタイプによって交通制限をされるが,北京製のジープなら,いつでもどんな道路でも走れる.それが北京の自動車産業に対する支援政策になっている.」とのことであった. 4 年ぶりに北京を訪れた岩田教授は,その変貌ぶりに感激していた.近代的ビルの林立によって,街の雰囲気が一変したうえ,車が増え,以前あふれていたオンボロ自転車は陰をひそめたようだ.
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