研究報告

高齢者の色彩認識特性の実験心理学的分析 研究代表者:中村 信次
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高齢者の色彩認識特性の実験心理学的分析
―高齢者の色認識と色嗜好の関係―
(中間報告)

Experimental analysis of color perception in elderly person
−relationship between color perception and color preference−

研究代表者:中村 信次 (情報社会科学部助教授)
共同研究者:高橋 晋也 (名古屋大学大学院環境学研究科)

研究期間 2005年度〜2007年度

Abstract
 高齢者向け機器の色彩設計の指針を得るために, 高齢者の色認知特性と色嗜好との関連を検討する 一連の心理実験を計画した. 本年は研究計画の初年度に当たり, さまざまな年代の被験者において, PC 画面上に模擬された色光照明が, 対象物の色知覚や具体的事物の印象形成にどのような影響を及ぼすのかを 検討する実験を遂行した. 次年度以降は, 本年度の取り組みにより得られた課題に対応し, 高齢者の色認知特性をより包括的に分析可能な枠組みへと, 研究計画を展開していく.

目的
  近年, わが国は他に類例を見ないスピードで社会の高齢化を進め, 現在人口の 5 人に 1 人が 65 歳以上という, 高度高齢社会を迎えている. この状況に鑑み, 高齢者が快適で安全に生活できる環境を構築するための さまざまな取り組みがなされている. そのような試みの中でも重要なもののひとつに, 高齢者の視覚特性を計測し, それに適合させた機器を開発することにより, 高齢者にとって使いやすい機器を実現させるというアプローチがある. 高齢者は, 若年者に比して, 視覚受容器の加齢変化に伴い高空間周波数帯域での視感度が低下し, 水晶体の黄変に伴い 青色に対する視覚応答性が悪くなる. このことを踏まえ, 高空間周波数帯域でのコントラスト強調を施し, 青み成分を 強調することにより, 高齢者にとってより見やすい視覚表示を実現することが可能となる. しかしながら, これまでの 取り組みは, より低次の感覚レベルでの (生理学的な) 検討が主であり, より高次の認識レベルでの (心理学的な) 検討はあまりなされていない. そこで本研究においては, 高齢者の視覚認識にかかわる特性を心理学的に分析することにより, 高齢者向け機器開発における設計指針を得ることを目的とする.
 本研究においては, 高齢者の色彩認識特性を以下の 3 つの水準にわたり検討することを試みる.
 

 第 1 に知覚判断レベルの問題として, 種々の知覚現象における高齢者の特性を分析する. 検討対象とする知覚現象としては, 同時色対比・同化を含む色彩錯視現象および色恒常性現象を想定している. 次に認知判断レベルの問題として, 高齢者の典型色判断特性の分析を行う. 実験課題としては色名判断を用い, 高齢者のカテゴリカル色知覚特性の若年観察者との 差異を分析する. さらに価値判断 (感情) レベルの問題として, 高齢者の色嗜好特性の分析を試みる. 具体的には, 高齢者の特定の製品カテゴリに対する“好み”の色彩の傾向が, 若年者とどのように異なるのかを明らかとする. 高齢者の 色彩認識にかかわる問題を 3 つのレベルにおいて総体的に把握することにより, 高齢者特性を単なる感覚レベルの問題でははく, 知覚−認知−感情という心理過程全体の問題として検討することが可能となる. このような検討を通して得られた基礎的な知見に 基づくことにより, 高齢者の視覚特性に合わせた視覚表示を実現するとともに, 高齢者にとってわかりやすい外観を備え, 高齢者にとって好まれる色彩デザインを有する製品の開発を行うことが出来る.

進捗状況
 本年度は, 研究計画の初年度に当たり, まず関連論文の渉猟を行い, 研究動向の確認を行い, 最終的な実験計画の修正を行った. その上で, 研究対象とする事象を決定し, 1) 知覚・認知判断レベルの課題として 視覚対象の色恒常性を, 2) 価値判断レベルの課題として食品写真に対する印象評定を検討対象とすることとした. また, 各レベルの課題に共通する独立変数操作として, さまざまな特徴を持った色光照明の及ぼす影響を検討することとした. さらに, 多様な年齢層の被験者に対し容易に心理実験を遂行することを可能とするために, 実環境内での照明変化を伴った 実験操作ではなく, PC ディスプレイ上に色光照明をシミュレートすることとした.

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