研究報告

高齢者の色彩認識特性の実験心理学的分析 研究代表者:中村 信次
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1) 色恒常性実験
 照明光のスペクトル成分の変化に伴い, その照明により照らされている物体からの反射光スペクトルも変化する. たとえば, 夕焼けの赤い光に照らされている白色の物体 (たとえば白い紙) からの反射光は, 赤色となる. しかしながら, われわれの視覚情報処理システムにおいては, 照明光の影響を補正し, 赤色照明下で白色対象を観察した場合には, その対象の色 (表面反射率特性) を正しく反映し, 対象の色を正しく白として知覚することができる. この現象を“色恒常性 (知覚)”と呼び, 動的に変化する環境下での正しい色知覚の基礎となっている.
 本研究においては, この色恒常性知覚の問題に関し,“コンピュータグラフィクス (CG) により模擬的に構築された 3 次元空間内での照明の効果”を検討する. PC 画面上に提示された視覚刺激に対する色恒常性知覚の成立過程を分析する ことにより, 実空間内での色恒常性実験と比して, 簡便な手続きでより多くの条件の検討を行うことが可能となる. このことは, 高齢被験者の色知覚特性の分析を行うことを目的とする本研究においては, 被験者の疲労の問題に関連し, 特に重要な事項となる.

図1 実験に用いた画像(上:青照明、下:赤照明)

 具体的には, 図 1 に示す CG 画像を PC モニタ上に提示し, さまざまな模擬照明光下での画像内の灰色のテスト領域の見えの 色味を計測した. 色恒常性の測定には, 無彩色マッチング (achromatic color matching) と呼ばれる手法を用い, 模擬色光照明下でテスト領域が無彩色 (灰色) に見える色範囲を, 心理物理学的測定法の一種である調整法を用いて測定した. 独立変数として画像解像度を操作し, 320, 160, 80, 40, 20, 10 の 6 条件を設定した (図 2).

 

図2 種々の解像度の画像

解像度320

解像度160

解像度80

解像度40

解像度20

解像度10

解像度の低下に伴い, 画像のリアリティが低下すると予測され, 色恒常性もあわせて低下するものと考えられる. この検討により, これまでは主観 評価に頼っていた CG 画像のリアリティの評価を, 心理物理学的測定法により客観的に測定された恒常性指数色 (恒常性の成立の 度合い) により評価することが可能となる. さらには, 色恒常性の効果が, 本当に CG により再現された照明空間認知に よるものなのかを検討するために, 画像をスクランブル化し, 空間認知が成立しない刺激条件下でのテスト領域の見えの色味も 測定する (図 3).

図3 スクランブル画像

 現在, 10 名の若年被験者 (大学生) による実験を遂行中である. 若年被験者の実験が終了した後, 実験手法のレビューを行い, 高齢被験者を対象とした実験を実施する. また, 今回の実験においては, 被験者の色知覚レベルの反応を計測するために無彩色 マッチングを用いたが, 本研究が目的とする多層の水準にまたがる高齢者の色認知特性の検討を遂行するために, 色認知レベルで の特性を分析することの可能な, カテゴリカル色知覚を用いた色名判断課題の適用も検討することとする.

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Copyright(C):2006, The Research Institute of System Sciences, Nihon Fukushi University