震災時の安否確認システムの実用化についての研究
研究代表者:大場和久(情報社会科学部助教授)
共同研究者:柳本哲也(中京大学教養部講師)

 

1. はじめに
 本研究は震災時の安否情報を迅速かつ正確に収集できる安否確認システムを提案し,実用化に向けての検討を行うことを目的としている.
 震災時には初期段階の救援活動のために個人の安否情報が必要となる.安否情報の収集方法として,市町村の行政職員の見回りによる収集方法や航空写真を利用した方法,携帯電話のメイル機能を用いた方法などが提案されている.しかし,非常時に参集できる市職員の数は人口と比して非常に少なく,航空写真を利用したシステムでは家屋の倒壊情報は収集できても住民の安否は確認できないなどの問題がある.携帯電話は震災時に利用者が集中するため,輻輳などの問題から使い物にならない.本研究では,電話回線,有線情報網,電気など震災時にその利用が確約できないインフラを必要としない頑強な安否確認システムを目指している.

2. これまでに行ってきた研究
 1995年の阪神・淡路大震災以来,迅速かつ正確に住民の安否情報を収集する方法として,簡単な操作によって住民が自ら被災情報を発信できる安否確認システムを提案し,その有効性を検証する研究を進めている.以下にこれまで行ってきた研究を年次ごとにまとめる.
1995年
 阪神・淡路大震災直後に発足した「立命館大学阪神・淡路大震災復興計画に関する特別調査研究プロジェクト(代表者:佐々波秀彦)」のメンバーとして,被災地の調査,日本各地の震災対策の調査を行ってきた.震災時には情報の不足と伝達ルートの偏りから,救助活動や被災者の支援活動に大きな支障があった.システム工学者の立場で,震災時の情報の流れについての問題点を指摘し,その対策を提案した.
1996年
 安否確認問題の対策として,正確な情報を収集するためのシステムの提案と概要の検討を行った.非常時に使用できるシステムとするため,操作が簡単なこと,電気や電話などの震災時に使用できない可能性のあるものに頼らない頑強なシステムであることを条件とした.
1997年
 プロトタイプモデルを制作し,1997年8月17日神戸市東灘区深江の住宅街で野外実験を行った.結果は良好で,基地局から30〜50mの距離で基地局との間に障害物がないポイント5点.基地局から30〜50mの距離で基地局との間に障害物があるポイント5点.基地局から100〜200mの距離のポイント5点の全てから正確に情報を受信できた.
 実験を行った神戸市東灘区は阪神・淡路大震災でもっとも被害の大きかった地域である.実験のために自宅を提供するなどの協力をいただいた方は震災時に自宅が倒壊し,その方自身も家の下敷きとなる被害を受けている.実験後に実験に参加した人を対象として操作性と有用性について聞き取り調査を行った.その結果,お年寄りなどいわゆる機械に弱い人でも送信操作は容易であること,家の下敷きになっている場合でも玄関口に送信機を設置すれば近所の人が送信機の操作をする可能性が高いことがわかった.受信システムの操作についてはExcelの操作に慣れている人でないと難しい,逆にExcelに慣れている人なら操作が可能という意見が聞かれた.
1998〜2002年
 上記のシステムは地域の世帯数と同数の周波数バンドを用意しなければならないといった問題があった.そこで,システムを改良し,1つの周波数バンドでの送信機の設置可能台数についてのシミュレーションを行った.

 

 

3. 現在の研究紹介
 これまでに制作したシステムはWindows95,Microsoft社のExcelで動作するものであった.信号の入力にはプリンタの端子を使用するなど,機種やOSへの依存が大きかった.この点を改良するためシステムの信号受信システムのハードウエアを検討している.具体的には受信機側で受けた信号をアプリケーションに取り込む方法が大きな課題となっている.これまでのシステムは,トランシーバで受けた信号をデジタル変換してプリンタ端子からPCに取り込み,その情報をExcelから読み込むものであった.信号の集約にはノート型PCを利用するが,現在販売されているノート型PCにはプリンタ端子はなく,シリアル端子もほとんど付いていない.代わりにUSB端子,ネットワーク端子が利用できる.現在はこの2つのインタフェースに絞り,検討を進めている.
 また,送受信についてもさらに多くの送信機から情報を収集できるように開発を進めている.送信機のタイミングで信号が発信されるシステムでは,1つの周波数バンドで400程度(送信時間2時間でシミュレーションした結果)の送信機からの信号受信が可能である.送受信機の間で双方向の通信を行うことで7〜8倍の信号受信を可能とするシステムへの移行を検討している.

4. 今後の研究予定
 今後の研究は以下の3つのフェーズに分けて考えている.
a. システムのハード構成
 これまでのシステムは信号の強さや搬送波の周波数調整がシビアであった.このことも踏まえ安定動作,システム上で動作させるソフトとの関連などの点を考慮に入れて本年度中にハード構成を決定する予定である.
b. システムのソフト構成
 ここで考慮することは2点である.汎用性を持たすためにOSやアプリケーションのバージョン依存の少ないシステムとすること,緊急時に操作することを考えマニュアルなしでも使えるものとすることである.
 設計するシステムは信号の送受信システム,情報の読み込みと操作のためのインタフェースを司るアプリケーションである.信号の送受信にMODEMの考えに基づくA/D,D/A変換を採用してきたが,信号のより安定した送受信のためにバーコードの読み取り方式に基づく方法を検討している.アプリケーションの基本構成は従来通りとするが,情報の読み込み方式についてはその検討も含めて今後の課題である.
c. 実用化に向けての実験
 実用化に向けて,システムの操作性・安定性,信号の送受信の確実性の実験を行う.さらに送信機数が数十台規模の実用化実験を行い,システムが設置されていることによる安心感や防災意識の向上などの効用について調査する予定である.


<参考文献>
仲上,吉越,小幡 編:新防災都市と環境創造〜阪神・淡路大震災と21世紀の都市づくり〜,法律文化社,pp.182〜191 (1996)

立命館大学震災復興プロジェクト 編:震災復興の政策科学,有斐閣,pp273〜283(1998)

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