CODE
403
担当教員
永 井 淑 子
テーマ
介護保問題を保健・医療・福祉の総合的観点から捉える
著書・論文
研究課題等
著書
『高齢者福祉の組織心理学』 福村出版 平成6年4月
共著
『医療福祉概論』 学文社 平成9年4月など
論文
「鹿野町における寝たきり老人実態調査」 資料と解説 『社会保障』 vol17 昭和60年6月
「豊田市の在宅援助に関する研究」 日本福祉大学社会科学研究所年報第9号 平成8年3月など
研究課題
高齢者が安心して利用できる介護保障制度実現のために
ゼミ概要
高齢者介護と深いかかわりのある医療保障法, 介護保障法, 福祉サービス法などの法制度と現実に起こっている介護問題との乖離に着目し, その解決方法を考えていきたい。
わが国は1961年以降, 国民皆保険体制が実現し, 他の法律で医療が保障されるごく一部の人を除いて, すべての人に医療保険が適用された。 以降, 不充分な福祉の体制の元で, 高齢者介護の大部分は家族と医療が担ってきた。 高齢者介護が社会問題化していくなかで, その対応を福祉の充実という方法でなく, 新しい介護の制度, 社会保険方式による介護保険という形で乗り越えようとしている。
2000年4月から介護保険が実施され, 現在2年目を迎えている。 2001年10月からは高齢者の保険料が本格徴収されることになり, 経済的に負担の重い高齢者のために, 保険料や利用料を減免する自治体もしだいに広がりをみせている。
「老人福祉」 は, 高齢者の医療を保障し, 施設介護, 在宅介護を担う中心的存在であったが, 前者は 「老人保健法」 に後者は 「介護保険法」 にとって代わられ, 現在の高齢者福祉は, 介護保険が使えない軽度の障害高齢者の自立支援や介護保険施設退所後の受け皿など, 介護保険の周辺部分を支える制度として機能することが期待されている。
このように高齢者介護は, さまざまな制度と関連しているのであるが, あいつぐ制度の創設は家族の介護負担を軽減したのであろうか。 各地の自治体では介護保険実施以後介護サービスを利用する人が増加したと報告されている。 計画された利用率を大幅に下回っているとはいえ, 介護サービスを身近に感じる人が増えることは, 一面では喜ばしいことである。
しかし, 一方では介護をめぐりさまざまな問題を抱えた人たちがいる。 介護保険実施以後の新聞記事には, さまざまなサービスを利用することなく, 事件になってはじめてクローズアップされる介護者の苦悩があふれている。
たとえば, 「寝たきりの義母を殴って死なせたとして, 大阪府警西淀川署は, 大阪市西淀川区の主婦を障害致死容疑で大阪地検に書類送検した。 義母は昨年1月から主婦宅で同居し始めたが, 主婦は義母の介護について, 収入が多いと介護保険が受けられないと誤解し, 保険の申請をしていなかった。 」 (2000年11月18日付朝日新聞・夕刊)
「埼玉県警越谷署は6日, 痴ほう症の夫を殺したとして, 同県越谷市平方南町の無職○○容疑者(68)を殺人の疑いで緊急逮捕した。 調べでは, 阿部容疑者は6日午前4時半ごろ, 自宅の寝室で寝ていた夫の○○さん(68)の頭を自宅にあった木製のカエルの置物で殴り, さらに電気掃除機のコードで首を締めるなどして殺害した疑い。 調べに対し, 『○○さんの介護に疲れ, 殺した』 と供述しているという。 」 (2001年1月6日付朝日新聞・夕刊)
「愛知県小牧市で2月, 介護していた寝たきりの三女の首を絞めて殺したとして, 殺人罪に問われた会社役員○○被告(95)に対し, 名古屋地裁は9日, 懲役3年執行猶予5年(求刑懲役5年)の判決を言い渡した。 (中略)判決によると, ○○被告は8年前に妻が亡くなってから, 脳性まひなどで寝たきりの三女○○さん(当時56)と2人暮らしだった。 ○○さんに施設に入所するよう説得したが聞き入れられず, 将来を悲観して2月26日夜, 自宅で首をタオルなどで絞めて殺した。 犯行後, ホルマリンを飲んで自殺を図ったが失敗した。 」 (2001年10月9日付朝日新聞)などである。
また, サービスを利用していても, 認定度による限度額の制限や利用料の負担が重いことなどによるさまざまな問題が浮かび上がっている。 さらに, 制度発足後1年目にして起こった 「ケアマネ殺人事件」 も, 制度の内容の不備について考えさせられた。
ケアマネ殺人事件とは, 2001年4月3日に介護保険のサービスを利用していた被害者を, ケアマネジャーが殺害した事件でマスコミでも大きく報道された。 当時の新聞記事によると 「和歌山市新雑賀町, 元旅館経営○○さん(75)が殺され, 遺体で見つかった事件で, 殺害を自供した同市手平4丁目, 介護支援専門員(ケアマネジャー)○○容疑者(37)=詐欺などで逮捕=が和歌山県警の調べに対し, ○○さんから奪った預金通帳を使って引き出した約75万円について 『約50万円を借金の返済に充てた』 などと供述していることが7日, 分かった。 動機については 『○○さんに借金を頼んだが断られ, かっとなって殺した』 と供述している」 (2001年5月7日付朝日新聞)という事件である。 この事件以後, ホームヘルパーが利用者から金銭や預金通帳を預からざるを得ない実態の是非や, 地域権利擁護事業の充実と周知について議論が行われている。
高齢者介護で施設を利用しなければならない人々の大部分は, 「社会的入院」 という形で医療機関に入院していた。 介護保険実施以後もこの現状は続いている。 現在議論されている医療制度改革では, 6ヶ月を超えて入院する長期入院高齢者に対して, 入院費用部分の診療報酬を廃止してその分を患者本人の自己負担とすることが検討されている。 「厚生労働省は, この施策で長期入院患者が退院すれば, 介護施設に移ってもらう考えだが, 介護施設が充分整備されるかどうかは不透明」 (2001年10月11日付日本経済新聞)という無責任な内容である。 介護保険施設である特別養護老人ホームには, 入りたくて待っている人が10万人いるといわれている。 これで医療機関から退院をせざるを得ない人が出ると, 在宅で, その大部分を家族が担うことになる介護は, ますます深刻な様相を呈してくるだろうと思う。 法制度の内容と現実に起こる介護問題を捉えながら, 利用者が安心して利用できる介護保障について学んでいきたい。
使用テキスト
担当教員からのメッセージ
社会保障法学会編, 「講座社会保障法第4巻 『医療保障法・介護保障法』 」 法律文化社
2001年10月30日発行 3900円(税別)
1年目はテキスト, 新聞記事等を利用しながらゼミを進めるので, その間に, 自分の問題意識を深め卒論のテーマを考えて欲しい。 自分のテーマは自分で考えること。 ゼミは休まないこと。
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