CODE 313 担当教員 杉 山 章 子
テーマ 医療ソーシャルワークの歩みをたどる
著書・論文
研究課題等
[著書]
『占領期の医療改革』 勁草書房, 1995年
『GHQ 日本占領史 第 22 巻 公衆衛生』 (訳・解説) 日本図書センター, 1996年
『佐久病院史』 (共著) 勁草書房, 1999年
『国際医療福祉最前線』 (共編著) 勁草書房, 1999年 他

ゼミ概要
<内容・方法>

 医療福祉は, 社会福祉のさまざまな領域のうち, 医療に関する部分を担う一分野として扱われてきました。 多くの社会福祉のテキストでは, 家族福祉, 司法福祉, 産業福祉などと並んで医療福祉の項目が設けられ, 医療制度・医療機関における福祉として紹介されています。 そして, 医療ソーシャルワークは, 医療スタッフの行う 「治療」 に寄与し, 医療効果を高めるために, 患者をめぐる社会的, 経済的, 精神的諸問題に取り組むものとされてきました。
 医療ソーシャルワークが, アメリカから組織だって紹介された敗戦直後には, 急性伝染病が猛威をふるい, 人々の平均寿命は 50歳代, 病院における 「治療」 中心の医療が主流でした。 しかし, 医療技術が長足の進歩をみせ, 衛生状態が格段に改善された現在, 平均寿命は 80歳代にまでのび, 病院の 「治療」 だけでは 「治せない」 高齢者の疾患, 慢性病, 難病などが増えています。 こうした状況に対応するために, 現在では, 治療 (Cure) のみならず, ケア (Care) を含めた多彩な医療活動が展開され, 活動の場も, 病院にとどまることなく, 保健・福祉施設や地域へと広がっています。
 このような動きの中で, 医療ソーシャルワークには, 以前にもまして, 幅広い役割が求められています。 病院など 「治療」 中心の医療現場では, ソーシャルワーカーは, 医師をはじめとする医療スタッフの方針に従って活動することが少なくありませんでした。 しかし, 病気や障害を抱えた人を, 「患者」 としてだけでなく社会で生活する人間として支援していく方法が重視される現在, ソーシャルワークのイニシアチブが期待されています。 つまり, 狭義の医療を対象とするソーシャルワークでなく, 広く人間の生活を射程に入れたソーシャルワークが必要とされているわけです。
 保健・医療・福祉の連携が叫ばれる今日, 医療ソーシャルワークは, もはや社会福祉の一分野を守備範囲とするのではなく, 包括的ソーシャルワークを担う段階に入ったということができるかもしれません。 しかし, 保健・医療の専門スタッフと協働する中で, ソーシャルワーカーが有効性のある独自の視点を提示できているかというと, こころもとないのが現状です。 他の医療専門職と張り合うために虚勢を張ったり背伸びしたりするのでなく, 福祉専門職としてソーシャルワークを発展させていくにはどうしたらよいのでしょうか。
 本ゼミでは, この難題に取り組む基礎作業として, 医療ソーシャルワークの歴史を取り上げ検証します。 医療分野のソーシャルワークは, ソーシャルワーク形成の初期から登場し, その形成過程に重要な役割を果たしてきました。 医療は, 人間の生命と生活に深く関わっているわけですから, ソーシャルワークと深い結びつきがあるのは当然といってもよいでしょう。 医療ソーシャルワークの誕生には, 医師が深く関与し, その後の展開にも大きな影響を与えています。 その一方で, ソーシャルワーカーたちは, 実践の方法を磨き, 専門職としてのアイデンティティを確立しようと苦闘を重ねてきました。
その歩みをたどっていくと, 社会の変動とソーシャルワークがどのように関連してきたのか, 現在ソーシャルワークの抱える問題がどのように生じてきたのかが見えてくるはずです。 時間軸の中でソーシャルワークを捉える視点を獲得することによって, 今後のソーシャルワークを考える手がかりをつかんで欲しいと思います。

 三年前期は, 医療ソーシャルワークの歴史に関する基本文献を講読し, 後期は, ゼミ生の興味関心に合わせてさらに詳しい研究へ進むために, 一次史料や専門的な文献の活用法も紹介します。 四年次は, 各自の研究課題に基づいた卒論指導が主体となりますが, 個々の進捗状況や成果を報告しあいながらゼミ全体として論文のレベルアップをはかりたいと考えています。

<履修上の注意>

 歴史を学ぶことは, 昔の史実を掘り起こすだけの作業ではありません。 直面する問題を考え今後の方向をさぐるために, 現在につながる過去を検証するわけです。 したがって, 卒論のテーマは, 「過去」 ではなく現在に着目したものであってもかまいません。 時間の流れ, 社会の変動を捉える視点さえ確かならば, 各自の問題意識に基づいて, 幅広い研究テーマの設定が可能です。
 ゼミは, 単なる少人数の学習の場ではなく, 教員も含めたメンバー全員が互いに討論し意見を交換しながら進めるところに大きな意義があります。 自分と異なる意見をもつ人に自らの考えを的確に伝えること, 他人の意見をきちんと聞き理解すること, そして相互に議論する中から自分の考えを鍛えることが重要です。 本ゼミでは, 口頭でのディスカッションに加えてレジュメや図表を使用した効果的なプレゼンテーションを行うことによって表現力を高めることも目指します。
   卒論については, 各自のオリジナリティを重視します。 たくさんの本を読み, それらを上手に切り張りしたものは, 一見うまくまとまっていてもその人の論文とはいえません。 ゼミで学習を重ねる中から自分自身のアングルを見出し, 資(史)料やデータと格闘する中から独自の論文を作り上げてください。 自分自身の 「作品」 を完成させた達成感は, 大きな自信につながるはずです。

使用テキスト 担当教員からのメッセージ
ゼミで相談の上決めます。  学習を深め, 質の高い論文を完成させるためには, 豊かなバックグラウンドが必要です。 社会福祉領域だけでなくさまざまなジャンルの本を読んだり, 絵や芝居を観たりして, 息抜きをしながら知的センスを磨いてください。


(C) Copyright 2002 Nihon Fukushi University. all rights reserved.
本ホームページからの転載を禁じます。