CODE 309 担当教員 大 野 勇 夫
テーマ 医療福祉の対象と実践 ― その実態から学ぶ ―
著書・論文
研究課題等
『地域医療と福祉 ― 医療ソーシャルワーカーの働き ―』 大野勇夫他編著 勁草書房 1982年
『医療ソーシャルワーカー奮戦記』 大野勇夫他編著 ミネルヴァ書房 1995年

ゼミ概要
〔内容・方法〕

 今日の社会保障改革は国民生活に対する公的責任を縮小させ, 医療, 生活, 福祉などを資本の論理にまかせ, その市場と化することになりかねないものである。 その一方で, 公的ホームヘルパーなど縮小の傾向すらある。 これでは医療福祉の援助対象者のように所得の低いものにおいては, 介護の負担は家族にかかるしかないことになる。 たとえ退院援助をして自宅退院できたとしても家族に介護の過重負担をもたらすことになっているのである (千葉県医療社会事業協会の調査報告)。
 こうした苦悩の中で, 医療ソーシャルワーカー (MSW) は個別的な関係調整だけでなく, 社会保障としての制度の充実発展に向けての, 創造的な 「条件づくりの実践」 をしつつある。
 例えば, ある病院の MSW は入浴サービスを町で公的に制度化させることに成功している。 また, 地域に精神障害が働く協同作業所をつくり, 都の資金援助を引き出す実践もある。
 MSW や PSW の実践はその歴史的任務として, 医療を平等に受けられるように援助していき, いま, 加えて, 生活条件や介護条件がととのわない患者もなお在宅生活が平等に可能となるように保障しなければならないと考え, 相談援助及び生活条件づくりの実践をしているのである。
 そこで, 本ゼミでは, 次の二つの課題を追求しようとするものである。
1. 医療福祉の対象の生活実態調査を実施する。
 このために, ゼミ生こぞって夏休みの初め又は終わりに1週間の日程を取り, 医療福祉の対象者の生活実態調査 (できるだけ訪問調査をめざす) を行う。 場所はまだ未定で, 愛知県下でない場合もある。 調査は合宿形式で行う。 旅費及び宿泊費は自己負担となる場合がある。
 前期は調査のための事前学習を集団で行う。 例えば, 対象者の生活に関わる制度政策の学習, 生活理解のための学習, 訪問面接の方法についての学習などである。 また, 前期においては調査の実施にともなう様々な準備作業を共同して行う。 その中には調査項目の設定も含まれる。
 以上を通して調査の方法を体験的に学び, 福祉の実践場面において得られるデータを科学的な資料としてまとめたり, 自ら主催して調査を実施する能力を獲得できるようにしたい。
2. 医療福祉の理論の検証と援助の方法の力量を獲得する。
 医療福祉の理論は専門社会事業に傾斜しがちであるが対象者の生活実態に即した真のニーズを踏まえて, 医療福祉事業を総合的に検討する必要がある。 後期ではゼミで自ら調査した材料をもとに医療福祉の対象把握をし, ゼミ生自身が主体的に理論的な検証を行う。
 それは調査のデータをデータベースとして利用できるように入力し, 情報処理することによりマクロ的な把握をすることと, 一つ一つの事例について事例研究も行う。
 医療福祉の援助の実際においては, 常にアセスメントはついてまわる。 アセスメントは生活を総合的構造的に把握することと, そのプロセス自体が被援助者と共同的に行われることにより援助の関係も形成される。 事例研究を通してそうした能力も獲得される。
 以上のようなゼミ活動は当然のことながら, 集団的に行い, 集団の中で実践現場で求められる様々な力量を獲得するものである。
 とりわけ, 次のような力量を獲得することが期待される。
1)  認識能力
 医療福祉においては問題を抽象的, 観念的にではなく事実に即して考えることが必要である。 しかも, 問題を個別的にだけでなく, 社会的に捉える必要がある。 そのためにも問題を社会科学的に把握する能力が求められる。
 生活実態調査とその分析作業は社会科学的に考えることを要求し, そうした能力の獲得を可能とするはずである。
2)  組織能力
 ゼミ活動ではゼミ員すべてに組織能力を要求する。 ゼミは一つの組織であり, 民主主義の実践の場である。 全員が一回はゼミ運営委員を経験しゼミ員一人一人の学習意欲と課題を出し合い, これを束ね, 実現していく力量が求められる。 それはもちろん初めから備わっているというより, 運営に苦労し, 泣いたり怒ったりし, そうした集団的なゼミ運営を通して獲得されることである。
3)  研究能力
 文献の切り貼りによって, 一人で行う研究ではなく, 医療福祉の研究は実態に即して, 集団的な討議と共同の中で行われるものである。 ゼミ活動の経験自体がそうした研究能力を獲得することにつながるものと考える。 ゼミの最終においてゼミ論文をまとめる作業を行うことができればゼミ活動の中で解ったことを論理的に表現する力量も獲得できると思われる。
 最後に, ゼミ員に期待したいことをまとめて言うならば, 以上のことは額に皺をよせて行うのではなく, まずは, お互いが本音を出し合い, みんなのしたいことをまとめて, 楽しいゼミを創ってほしいということである。 そのことは自ずと先に示したような目標に近づくことにつながる。 楽しいゼミにするのも楽しくないゼミにするのもゼミ員の責任である。

使用テキスト 担当教員からのメッセージ
   


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