CODE 202 担当教員 斎 藤 文 夫
テーマ 知的障害者の 「施設改革」 と地域生活の研究
著書・論文
研究課題等
 

ゼミ概要
 このゼミは, 知的障害者の生活の場としての入所施設とグループホームの実際を, 在宅生活 (=家族との同居生活) 等との比較において考察し, 真に地域で暮らす=ノーマライゼーションの実現に向け, わが国の障害者福祉の課題を 「施設改革」 の視点から研究する。

 今日, 障害者が 「地域でふつうの生活」 をおくるることが目指されている。 障害者が地域で暮らすためには, 特別な二一ズに対する医療, 福祉, 療育・教育の専門機能・施設と 「生活を支える機能・施設」 は不可欠であり, これらを地域に整備することが重要である。
 一部のノーマリゼーション論者たちは, 「入所施設」 の存在と増設が, 限りある福祉財政を食い荒らし, 地域福祉の推進にとって妨害物であり, 地域福祉のシンボルのグループホームの普及とその条件改善を阻害していると主張を繰り返している。
 たしかに, 北欧では入所施設を廃止し地域のグループホームに移行を完了したという。 しかし, かつて北欧では過半数を超える大多数の障害者の生活を, 家族に任せたのではなく社会が支え, そのための施設を整備してきた。 その施設の処遇条件は, 現在のわが国の施設の 10 倍を超える高い水準を実現していたのである。 その後, その高い処遇水準, 充実したスタッフを引き継ぎ, さらに充実した個人生活の保障を目指して少人数がミュニティーの中で社会的支援を受けた暮らしに移行したのである。 このように歴史を見ると, 日本を含めて家族同居を主流として入所施設が少なく処遇水準が貧しい福祉後進国の場合, 「地域生活への移行」 は未だ実現された例がないということ。 これが歴史の発展過程から見て取れる唯一の真実である。 このように見るとき, 入所施設がグループホームの発展を阻害し, 地域福祉に敵対するという単純な主張の不十分さに気づくことが出来る。
 今日, わが国の入所更生施設の利用者はようやく全体の 30%を超えたが, その処遇の実態は深刻な問題状況を呈している。 すなわち, 重度者比率は 80%に迫り, 在所期間が長期化し 「終の棲家としての利用」 が常態となって高齢化が進行しているが, 対する医療体制や職員配置, 施設・設備の不足不備は著しく, その結果, 利用者は管理的で画一的な処遇が日常化した生活を余儀なくされている。 一部には利用者への権利侵害が発生する等の深刻な実態も報告され続けている。 このように今日わが国の入所施設が, 様々な問題を抱える存在である。 ならば, グループホームもまた同様の厳しい条件の下におかれているはずである。 グループホームもまた生活支援を行う紛れもない社会福祉施設なのだからである。 事実, わが国のグループホームは, 誕生から早 13 年を経過したが依然として国際的にグループホームとは言わない 「世話人つき下宿」 のままである。

 このゼミでは, 暮らしの場としての生活施設を作り出す課題を中心に取り上げる。
 その際, 特に留意すべきことは, 我が国の知的障害者福祉において 『生活施設』 は法律上も政策上も (おそらく実態としても) 存在してはいないという事実である。 この間, 生活施設の機能を代替してきたのは入所更生施設であった。 この施設は本来, 比較的短期間の自立のための訓練施設であるが, これが長期の暮らしの場として代用されて来たことが, 現在, わが国の入所施設の生活実態が際立って劣悪な状態にある遠因の一つとなっている。
 当ゼミは, 偏狭なグループホーム唯一論を寄って立つ立場とはしない (もちろん尊重するが)。 都市生活をイメージしたグループホーム像はあまりにも貧困である。 入所更生施設では, 多くの制約, 困難をかかえながらも, 実際に利用者の暮らしと生き甲斐を実現するために生活の改善に取り組み, 貴重な教訓を挙げつつある。 例えば個室とともに共有空間への注目, 食事など生活単位の小規模化, 日中活動と生活との分離など, 真の生活施設を目指す真摯な努力が続けられている。 規模の大きさの弊害を逆に利点として生かす郊外型, 農業型の施設での暮らしもまた豊かで魅力的である。 同時に, グループホームにおいても, 「干渉しないこと」 が世話人の役割という貧困な世話人像を返上して, 暮らしを豊かにする取り組みが始められている。 これらの多様な先進的な実践について学習・研究することを通じて, 私たちは, 兵舎のような建物と集団処遇の 「施設」 のイメージからも, 都市のアパートでの孤独な暮らしを想起させる貧しい 「グループホーム」 のイメージからも自由となり, 多様で豊かな障害者の生活をイメージすることが可能となるであろう。 そのさい, 障害の重度な人と軽度の人に留意して, それぞれ発達と生きがいを実現していくために, どのような取り組みが求められているか, 実際を通じて学ぶことが重要である。

【方法】
3年次
  1. [1] 豊かな暮らしをつくる (更生施設, グループホーム) [2] 作業・労働の場の保障(授産施設, 作業所),[3] 豊かな発達を保障する (児童施設, 通園療育) に分かれ, 施策の全体とその実践を中心に, 問題点と課題, 解決の視点等について学習を進める。
  2. サブゼミ単位で見学, 実習を行なう。 また, 各自, どれか施設を選択し, 自主実習などで現場の実際に触れつつ学習を進めていく。
  3. 3年次ゼミ論を各自で作成, 執筆し, 報告会を行う。
4年次
各自の研究を進め, 卒業論文にまとめる。 (ゼミに毎週出席を求める)

 今日, わが国の障害者政策は 「地域生活への移行」 を掲げて入所型施設の新設を止め, 一方グループホームは依然貧しい水準に留め置かれている。 近い将来, わが国では, 依然として圧倒的多数が 「家族と同居生活」 を続け, 入所施設利用者の多くが貧しい条件のグループホームに移り替わり, 入所施設は重度・高齢者のみが残され, QOL やノーマリゼーションが空しく響くような事態になるのではないだろうか。

使用テキスト 担当教員からのメッセージ
テキストはない。 参考文献 ( <5>
<6><7><8>等から) レポート提出を適宜指示する。
  • ゼミ合宿(2002 年 3 月末)を行うので, 掲示に注意し, 必ず参加すること。
  •  
  • 「障害児の病理と保健」 「発達心理学」 「リハビリテーション医学」 等を受講すること。


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