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112 |
担当教員 |
石 井 鉄 一 |
テーマ |
障害者の生涯援助を考える |
著書・論文
研究課題等 |
特になし |
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ゼミ概要 |
障害のある人たちとかかわるようになって41年が経つ。 彼らとかかわり始めて二つの課題を持った。
一つは, 援助者になることが課題になった。 長時間共に居るので, 早晩利用者から丸ごと見られてしまう。 丸ごと見られることを積極的に援助の利点にするのが長くかかわる援助の特徴である。 丸ごと見られていい自分になる, 丸ごと見られて彼らの成長を助ける刺激になるには, 自分を成長させるしかない。
二つには, 生涯援助システムの構築が課題となった。 施設で彼らとかかわっていて, とりわけ重度の知的障害者や自閉症の人たちには一貫性のある援助が絶対に必要だと分かった。 また, 施設から施設への生涯でいいのだろうか疑問がふくらんだ。 自分の足で歩いて添って生涯援助システムを描こうと考えた。 幸運にも, 在宅心身障害児・者短期母子療育施設, 知的障害児施設, 知的障害者授産施設, 知的障害者更生施設, 身体障害者療護施設, 特別養護老人ホームに身を置くことができた。 25年前の1975年知的障害者入所授産施設に身を置いて間もなくの頃, 彼らと一緒に働いていて, 「仕事頑張ろう」 と声をかけたところ, 「頑張ったって何もいいことない, 頑張ったってここから出れるわけでもないし」 という答えが返ってきて吃驚した。 以来, 入所施設から地域生活への移行援助システムづくりが重点課題となった。 施設から見えるところにある住宅に4人一組で移り住み, ボランティアにちかい世話人を見つけ, その人たちの援助を得て共同生活をし, 地域の職場に通勤する暮らしを創った。 グループホームのなかった頃のことである。 1989年に遅まきながら地域生活支援事業, グループホーム制度ができた。 その後, 今身を置いている身体障害者療護施設ひかりのさとのぞみの家で, 「障害がどんなに重くても生まれてきたからには町の中でふつうの暮らしがしたい」 と夢見て骨身を削るような模索をしている人たちのことを知り, 一緒に夢を追いたくて仲間に入れていただいた。 1999年, とりあえず, 職員宿舎の1階部分5戸を転用して 「誰もが, いつまでも暮らし続けることができる」 基地としての身体障害者福祉ホームを立ち上げた。 最初の一歩である。
階段を一段一段上って地域生活に移行していく, 彼らに見えるような分かるような援助システムを創っていて, 50代の女性のうつ状態にぶつかった。 その女性のうつ状態の回復, 再発防止に取り組んでいて, ここまで創ってきた援助システムが老いに対する理解と援助を欠いたものであることに気づいた。 階段を上っていくような発達段階にある人たちにとっては将来が開けていく希望のシステムであっても, 老いに向かって階段を降りていくような発達段階にある人たちにとっては挫折と不安のシステムだと分かった。 このときから, 発達には上昇の発達と下降の発達 (衰退ではなく) があると考え, 老いへの援助システムづくりを始めた。 ひかりのさとのぞみの家の人たちのように, 重度の脳性麻痺の人たちは, 障害が重いだけに夢や生きがいを持てなくなったら, 加齢により全身機能, 能力低下が急速に進んでいく。 口で食べること, 自分の力で排泄すること, 自分の力で呼吸することの素晴らしさに感動する度に, 夢を追い, 生きがいを持って, 自分らしい人生を模索し, 最期まで輝いて生きていくことができる援助システムの大事さを痛感している。
しかし, 援助者になるには自分を成長させるしかないと, 前者の課題に取り組むことに精一杯で, 後者の課題には殆ど手付かずのままで老いと向き合う年になった。 この度の機会は, 若い人たちからパワーを貰い, 一緒になって二つの課題を改めて考える, そして若い人たちに夢を託す, 最初にして最後のかけがえのない時間だと思っている。 援助者になるということは彼らから援助者と認められることだから, 彼らとかかわることで自分を見つめることを基本において, 援助者になるということはどういうことか, どんな援助をしたらいいか考えてほしい。 生涯援助について考えるには, 例えば施設の現実を一つとっても, ベンクト・ニィリエがノーマライゼーションの原理で示した八つの側面 (1日のノーマルなリズム, 1週間のノーマルなリズム, 1年間のノーマルなリズム, ライフサイクルにおけるノーマルな発達的経験, ノーマルな個人の尊厳と自己決定権, その文化におけるノーマルな性的関係, その社会におけるノーマルな経済水準とそれを得る権利, その地域におけるノーマルな環境形態と水準) からいまだ隔たりがある。 施設現場を這い回り, 評価し, 原因を探り, どうしたらいいか考えてほしい。
援助者になる, 子どもから大人になる援助, 老いへの援助, 発達援助とかかわり, 一人ひとりの発達を促す1日および1週間の生活リズムと1日および1週間の全生活プログラムを創る, 重度の知的障害のある人たちや自閉症の人たちと思いを伝え合う 「ことば」 を創る, 障害のある人たちに分かりやすい動きやすい環境を創る, 親を燃え尽きさせない家族をばらばらにさせない援助, 障害のある人たち一人ひとりを支える人垣を創る, どんなに障害が重くても暮らすことができる夢の町を創る, 障害のある人に生涯にわたって同行する人や機関を創る, 生活空間で安らいで過ごす力をつけるプログラムと居場所を創る, 生産 (活動) 空間でたくましく過ごす力をつけるプログラムと居場所を創る, レクリェーション空間で楽しく過ごす力をつけるプログラムと居場所を創る等あまたの取り組むべき具体的な問題がある。 私ができることは, 取り組む問題が見つかったら, その問題を掘り下げるのに最適の現場と人の紹介である。 現場を這い回り熱い汗を流すことを惜しまない, 障害のある人たちを好きになってかかわりたいと思っている人に参加してほしい。 |
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使用テキスト |
担当教員からのメッセージ |
(編著者名・書名・出版社・出版年)
未定 |
障害のある人を支える人垣になるつもりで始まった彼らとのかかわりですが, 今は彼らが私の人垣です。 彼らのそばに居ると楽に呼吸できるような気がして身を置いています。 これからは皆さんが私を支える人垣です。 よろしくお付き合い下さい。 |
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