プレミアム付商品券の効果

政策目標の手段を明確に

 ヤン・ティンバーゲン(1903~1994)は第1回ノーベル経済学賞を受賞したオランダの経済学者であり、「ティンバーゲンの定理」を提唱したことで知られている。「ティンバーゲンの定理」の内容は、複数の政策目標を達成するためには同じ数の独立した政策手段が必要になるというものであり、政策を立案する際には非常に示唆に富む定理である。

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 平成27年に多数の自治体でプレミアム付商品券が発行され、猛暑の中、多くの人が購入するために列をなして並んだことは各地でニュースになった。プレミアム付商品券事業は、政府の「地方への好循環拡大に向けた緊急経済対策」の一環として行われ、地域消費喚起・生活支援型交付金事業として実施された。同様の事業として、平成11年度の地域振興券事業、平成21年度の定額給付金事業があった。これらの事業は、消費喚起を目的とした経済政策として実施され、奇しくも約6年から10年の周期で行われたのである。

 それでは、これらの事業効果について見てみよう。地域振興券事業による新規の消費の誘発効果は2025億円と推計された(平成11年8月、経済企画庁によるアンケート調査)。また、定額給付金事業による新規に誘発した消費喚起効果は5098億円であった(平成24年4月、内閣府による分析)。そして、今回の地域消費喚起・生活支援型交付金事業による消費喚起効果は1019億円であった(平成29年4月、内閣府による分析)。これらの事業効果は当初想像していた水準よりも効果が小さかったため、いわゆる「バラマキ」であったという指摘もある。そのため、これらの事業は消費喚起には適していないという評価に陥りがちである。果たしてそうなのだろうか。

 これまでの地域振興券事業や定額給付金事業、そして地域消費喚起・生活支援型交付金事業は、消費喚起を目的とした経済政策であるのに、一方で老齢者や低所得者層への社会政策的な配慮が随所にあらわれたものになっている。例えば、地域振興券事業の対象者が子育て層と老齢者や低所得者層が中心であったこと。定額給付事業は65歳以上および18歳以下の者は割増で給付されていたこと。プレミアム付商品券事業では抽選などで対象者が選ばれたことが多かったことなどである。

 前述した「ティンバーゲンの定理」を踏まえるならば、消費喚起を目的とした経済政策は、最も消費を喚起する層をターゲットにして事業を行うべきである。また、社会政策を目的とする事業であるなら、別の政策手段が当然必要になる。つまり、一つの政策手段を複数の政策目標に適用したことが消費喚起としての効果を小さくしてしまったのかもしれないのだ。

 事業効果が乏しい政策は「バラマキ」と指摘されがちである。しかし、一つの政策手段で複数の政策目標を得ようとする政策もまた「バラマキ」となりうることに留意すべきである。政策を立案する際には、政策目標に合致した政策手段を絞りこむことが必要である。