• コラム

車いすハンドボールから学ぶ組織と人材育成

車いすハンドボールから学ぶ組織と人材育成

共生社会を育むパラスポーツの実践

 車いすハンドボールは、肢体障がいのある選手と健常者が専用の競技用車いすに乗り、パスやドリブルを駆使してゴールを競うパラスポーツである。私が監督を務める日本代表チームは、9月20日にスペインで行われた世界選手権で銀メダルを獲得した。

 本競技は単なるスピード感だけでなく、認知、スペースの活用、攻守の切り替え(トランジション)を制する高度な戦術スポーツでもある。障がいレベルに応じた持ち点(クラス分け)システムのもと、多様な個性やプレースタイルをパズルのように組み合わせてチーム全体の能力を最大限に引き出す。

 試合中は目まぐるしく状況が変化するため、自身の位置関係を正しく把握する状況認識や、相手の仕掛けを先回りして見極める予測・判断といった高次脳レベルの能力が求められる。限られた条件のもとで個の強みを引き出し、変化へ即座に対応するこの思考プロセスは、企業経営や組織マネジメントにも強い示唆を与える。

 こうした競技現場の課題に対し、科学的なアプローチで解を導き出すことが私の研究活動の核心である。日本代表候補選手を対象とした調査では、試合直前の「スポーツ状態不安」と競技能力やクラス分けとの関連を解明し、身体面のみならず心理的サポートを含めた包括的な指導モデルの構築を進めてきた。

 また、クラスごとに異なる運動負荷に対しては、単なる時間ではなく車いすを漕ぐ「プッシュ回数」に着目した健康科学的なロードマネジメントの設計を行っている。さらに、作業療法士や理学療法士などリハビリテーション専門職が競技支援に深く関与する体制を研究・検証することで、安全性の確保とパフォーマンス向上の両立を図っている。

 一方で、パラスポーツは共生社会の実現を担う人材を育てる上で、極めて高い教育的価値を有している。学校教育における体験型学習は、講義や映像鑑賞だけでは得られない「実感を伴う理解」を子どもたちにもたらす。実際に競技用車いすを操作し、視線の変化やルールの工夫を体験することで、障がいを単なる「不便さ」として一方的に捉える視点から、「環境や工夫によって可能性が大きく広がる」という認識への転換が促される。これは他者と協働する力や多様性を尊重する姿勢など非認知的能力の育成に寄与するとともに、国際舞台では互いの文化をリスペクトし平和へつなげる国際理解教育の推進にも寄与する。

 パラスポーツをめぐる展開は、競技力を高める「科学的研究」、体験がもたらす「教育効果」、そして施設利用などの「社会環境の整備」という三側面が相互に補完し合うことで真の価値を発揮する。行政、教育現場、研究機関、専門職、競技団体が連携し、大学の知見を地域へ還元するとともに現場の課題を再び研究へ生かす循環構造を構築することが不可欠である。この学びと研究の成果が企業や地域社会に広く波及し、多様な人材が真に活躍できる共生社会の基盤となることを切に願っている。

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Profile

大西満 健康科学部 教授

  • ※この原稿は、中部経済新聞オピニオン「オープンカレッジ」(2026年10月20日)欄に掲載されたものです。学校法人日本福祉大学学園広報室が一部加筆・訂正のうえ、掲載しています。このサイトに掲載のイラスト・写真・文章の無断転載を禁じます。

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