命をつないだその先の自立へ
医療技術の進歩に伴い、小児期における臓器移植の成功率は大きく向上した。とりわけ小児の慢性腎臓病においては、先天的な腎尿路奇形などが主な原因となることが多く、病状の進行とともに生活の質(QOL)の低下や成長発達への悪影響が懸念される。そのため、将来のライフイベントや発達段階を多角的に考慮し、就学前や学童期に両親などから生体腎移植が行われるケースが一般的となっている。移植によって健常児に近い生活を取り戻せることは、医療がもたらした大きな恩恵である。しかし、臓器移植の本質的なゴールは、単に手術を成功させて命を救うことだけではない。その先には、「子どもが自立して生きていくための支援」という大きな課題が存在する。
2000年以降、小児医療の分野では、小児期から成人期医療への円滑な移行を目指す「移行期支援」や「自立支援」への取り組みが活発化している。その背景には、小児期に移植を受ける子どもたちが、服薬や食事制限といった日々の身体管理から、治療方針に関する重要な意思決定に至るまで、その大半を家族に委ねて成長するという事情がある。そのため、自分の病気を「自分ごと」として捉えにくいという課題が生じる。
この課題が顕著に表面化するのが思春期である。国内外の小児移植患者を対象とした研究では、思春期以降、服薬を自ら中断したり自己管理を怠ったりするノンアドヒアランスが増え、それに伴う拒絶反応や移植腎の機能廃絶といった深刻な問題につながることが報告されている。二次性徴を迎えて自我が芽生え、親からの自立を模索する中で、「なぜ自分だけが薬を飲み続けなければならないのか」という葛藤や反発が生まれることは、自然な発達の過程でもある。しかし、病気の理解やセルフケアが十分に育たないまま大人への過程に進むと、取り返しのつかない結果を招いてしまうこともある。
こうした事態を防ぐため、現在の移植医療では多職種によるチーム医療が不可欠となっている。医師や看護師、コーディネーターだけでなく、服薬を支える薬剤師、適切な食事管理を担う栄養士、経済面や生活基盤を整える医療ソーシャルワーカー(MSW)らが連携し、子どもの発達段階に応じた自立支援を行っている。病気の理解をはじめ、自ら症状や希望を伝えるコミュニケーション力、セルフケア、意思決定、そして社会参加の力を、時間をかけて総合的に育むことが求められている。
しかし、この支援は医療機関の中だけで完結するものではない。子どもたちが日常生活の大半を過ごす学校や、地域社会の福祉関係者など、子どもを取り巻くさまざまな支援者が連携してこそ、実りある自立支援につながる。医療現場で得た学びを学校生活での配慮へつなげ、社会全体で子どもの成長を温かく見守る体制を整えることが欠かせない。
移植によってつながれた尊い命が、健やかで自分らしい豊かな人生として実を結ぶために、医療・教育・福祉が手を取り合い、子どもの成長に寄り添う自立支援の輪を、さらに広げていくことが重要である。こうした支援の大切さを、社会に伝えていきたい。
- ※この原稿は、中部経済新聞オピニオン「オープンカレッジ」(2026年9月28日)欄に掲載されたものです。学校法人日本福祉大学学園広報室が一部加筆・訂正のうえ、掲載しています。このサイトに掲載のイラスト・写真・文章の無断転載を禁じます。