• コラム

「生活に入り込む」リハビリ研究

「生活に入り込む」リハビリ研究

病院の中だけで完結しない

 かつて脳や神経は、一度損傷すると元に戻らないと考えられていました。神経科学の父サンティアゴ・ラモン・イ・カハールは「神経は再生しない」と述べています。しかしその後、脳卒中後の脳が経験や訓練によって変化することが明らかとなり、ランドルフ・J・ヌードらの研究は神経科学に大きな転換をもたらしました。脳は損傷後も学び直す力を持つ――この考え方が現代リハビリテーションの基盤になっています。

 一方で、回復の可能性が示された現在でも別の課題があります。機能が改善しても「まだ十分ではない」「役に立たない」と感じ、麻痺した手を使わなくなる人は少なくありません。こうした使わない経験の積み重ねが回復を妨げる現象は「学習された不使用」と呼ばれています。

 さらに医療・介護保険制度のもとでは、生活期(慢性期)に継続したリハビリを受けにくい現状があります。急性期や回復期に比べ生活期では支援機会が限られがちです。しかし脳の可塑性はこの時期にも失われるわけではありません。自分でもできる訓練と生活の中で繰り返し使う経験が回復を支える重要な要素になります。

 こうした課題に対し、日本福祉大学では「病院の中だけで完結しないリハビリ」を目指した研究を進めています。地域や在宅でも使用でき、日常生活の中で自然に手を使う経験を促す装置の開発です。リハビリを特別な場所や時間に限定せず、生活へ広げていくことを重視しています。

 開発は地元の自動車部品メーカーや家具メーカー、医療機関、介護福祉施設と連携した産学連携で進めてきました。製造技術と現場の知見を組み合わせ、使いやすさと効果の両立を目指しています。装置は麻痺のある腕を支え、洗体動作や更衣など日常動作に近い動きを引き出す構造とし、専門技術に過度に依存せず一定の効果が得られるよう工夫されています。
 2年にわたる実証では、回復が難しいとされてきた慢性期脳卒中の患者において、運動機能の改善だけでなく日常生活での麻痺した手の使用頻度の向上が確認されました。装置を用いた訓練が日常動作の実践につながることが示されました。

装置を用いた洗体動作のリハビリ
(瀬戸みどりのまち病院デイ・ケアにて)

 2026年春には学会発表を通じ研究内容を公開し、医療福祉関係者からも関心が寄せられました。大学が地域とともに進めた研究成果を社会へ還元する取り組みは始まったばかりです。日本福祉大学は今後も、誰もが効果的なリハビリを受けられる機会を広げ、生活に寄り添う研究を続けていきます。

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Profile

野間知一 健康科学部 教授

  • ※この原稿は、中部経済新聞オピニオン「オープンカレッジ」(2026年3月9日)欄に掲載されたものです。学校法人日本福祉大学学園広報室が一部加筆・訂正のうえ、掲載しています。このサイトに掲載のイラスト・写真・文章の無断転載を禁じます。

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