2) 色嗜好実験
多くの人は, その人が使う身の回りの道具, 衣類など, 特定の物品に対し, 特定の色のものを好むなど,
それぞれの色嗜好を持つ. このような色嗜好特性が,
年代によりどのように変化するのかを分析する試みは古くからなされてきているが, 年代差よりも個人差の
ほうがより大きく現れるなど, 一貫した傾向を見出している研究はほとんどない.
その意味においては,“高齢者に適した色使い”というものは定義することはできないと考えられる.
そこで本研究では, 個人の色嗜好の基礎となっている,
色の変化に伴う印象の変化を分析することにより, 色嗜好の形成過程が年代によりどのような差異を示すのか
を検討する.
具体的には, 色光照明下での食品 (食べ物) の見えの印象の変化を検討対象とする.
食品の写真 (4 種) に対し, 画像処理ソフトウェアにより色光照明
(赤, 青, 白色) の効果をシミュレートした画像を作成し, それを PC モニタ上に提示し,
それぞれの食品写真に対する印象を, SD 法を用いて計測した.
調査に用いた質問項目は, 表 1 に示す 19 個の形容詞対 (5 点尺度) からなっていた.
質問項目は, 通常の SD 法による印評価に用いられる
「力動性」 「評価性] [活動性」 に関連する項目に, 対象が食品であることを加味した項目を付加して作成した.
本格的な実験に先立ち, 視覚刺激および質問項目の妥当性を検討するために, プロジェクタースクリーンを
用いた大量一斉調査 (大学生約 120名対象) を行った. この取り組みの結果, 視覚刺激として用いた画像
および印象評定に用いた形容詞対のいずれもが, 実験目的に照らし妥当であることが示された.
そこで, より統制のとれた刺激提示環境を用い, 模擬された色光照明が食品写真の印象形成にどのような影響を
及ぼすのかを分析することとした. 実験は個別に行われ,
刺激提示にはカラーキャリブレートされた LCD モニタを利用した. 被若年被験者 (大学生), 高齢被験者
(60 歳・70 歳代), それぞれ20 名が実験に参加した.
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現在データの収集を終了し, その詳細な分析を進めている. 今後は, 色光照明による印象変化が, その事物に対する最終的な嗜好判断
(好悪) にどのような影響を及ぼすのかに関する分析を進めると同時に, 検討対象の範囲を拡大し, 他の事物 (商品) の印象形成に照明がどのような影響を及ぼすのかを,同一の枠組みを用いて検討していく.
表1 印象評定に用いた形容詞
1.かたい − やわらかい
2.おもい − かるい
3.あたたかい − つめたい
4.とまっている − うごいている
5.静か − にぎやか
6.あかるい − 暗い
7.鮮やか − くすんでいる
8.快 − 不快
9.派手 − 地味
10.東洋的 − 西洋的
11.和風 − 洋風
12.浅い − 深い
13.鋭い − 鈍い
14.美味しい − 不味い
15.甘い − 甘くない
16.辛い − 辛くない
17.酸っぱい − 酸っぱくない
18.しょっぱい − しょっぱくない
19.苦い − 苦くない |
今後の計画
上記進捗状況内でも述べたように, 次年度は基本的に本年度の取り組みを引き継ぎ, さまざまな年代の被験者における 色認知特性と色嗜好の分析を進め,両者の関係を記述可能な理論的枠組みの構築を試みる.
その際, 年代群ごとの 総体としての変化ではなく, 個々の被験者内での色認知特性を包括的に理解することによって, これまで個人差が大きく, 年代特性として明確にすることの困難であった高齢者の色認知・嗜好特性を,
高齢者向け商品の設計指針として利用可能なレベルで明らかとすることを目指す.
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