3 . 環境資源の管理を支える村落システムの状況
多民族国家 (民族学的には 68 民族といわれている) であるラオスでは, 民族によって自然村の規模や形態にも差がある. 焼畑移動耕作を営んでいたモン族等は,
かつては集落も数年単位で移動していたといわれているが, 水田耕作を行う低地ラオ族の集落は 100 年以上の歴史を持つ場合もある.
現在のラオスにおける行政的な基礎単位は村落 (Banh) である. 自然村の延長として形成されてきた村落の場合には, 20 世帯程度で 1
つの村落を形成する場合もあり, 他方, 200 世帯を超える大規模な村落もある. なお, ビエンチャン特別市を除くと, ルアンパバンなどの都市部においても,
行政的には, 県一郡一村というヒエラルキーのもとで, 複数の村落から構成されており, 日本でいうところの, 市と町村という区分はない. 近年,
ラオス政府は, 行政的・政治的・軍事的理由から, 村落の再編成をかなり強力に進めており, 山間地域に位置する村落の低地への移住と, 小規模村落の合併が主要な政策である.
筆者らは, 1995 年 11 月から 1 月にかけて, 国際協力事業団の協力を得て, 対象地域内の 76 ケ村すべてを対象にヒヤリング調査を行った.
また, 2000 年度には, 日本福祉大学情報社会システム研究所からの助成も利用して, さらに詳細な村落調査を行い, 5 ケ年間での地域社会の変化状況のデータベース化を進めている.
これらの調査結果から, 環境資源の管理主体として村落をとらえたとき, 現在の農村が置かれている状況を整理すると, 以下のような点が指摘できる.
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4 . 土地利用に関する実態調査
ラオスでは, 伝統的あるいは慣習的に土地が利用されてきた. その利用方法にも, 特定集落による排他的独占利用, 複数の集落による共同利用,
さらにオープンアクセス可能な利用の 3 タイプが認められる. このような利用は, 時として, 焼畑地の選定や火入れに伴う山火事の延焼, 家畜の放牧などに際して,
集落間でのコンフリクトを生じさせて来た. また, 1975 年以降, 社会主義政権の下で, すべての土地は国 (人民) に属するという政治的な建前との間で,
摩擦を生み出してきた. そのため, 土地や森林の管理を誰が責任を持って行うのかが曖昧となり, 結果的には森林の荒廃が進んできたという側面がある.
このような状況に対して, 市場経済の導入などと歩調をあわせながら, 1996 年以降, 森林・土地分配プロジェクトが全国で順次展開されている.
このプロジェクトは, 森林の区分を明確にして村落に帰属させるとともに, 土地の利用権 (相続可能) を一定のルールに基づいて世帯に配分し,
世帯単位で森林の管理・利用・再生を進めようとするものである. 主要な政策は以下のとおりである.
1. 村落境界の明確化と政府による承認
2. 農業生産用地 (水田および常畑可能適地) 以外の
森林の区分分けと村落による管理責任の明確化
・保全林(Paa Sangouan)
・保護林あるいは水源涵養林 (Paa Phon-khan)
・生産林 (Paa Phalit)
・天然更新林 (Paa Feunfuu)
・荒廃林 (Paa Sudsom)
3. 農業生産用地 (いわゆる焼畑地や休閑地を含む)
の世帯への配分と管理責任の明確化
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