5.考察

高齢者実験の結果をまとめると次のようになる.全般的にマウスが高い評価を得た.操作の速さは高齢者は3 つのグループに別れるが,若年者はすべてのデバイスで一定であった.高齢者は操作すべきスイッチが多いと操作が遅くなる.このため,障害者用のデバイスは高齢者には使いづらい.若年者ではそのようなことはない.多くのボタンを有するコントローラを使用するゲームの経験等が影響していることが考えられる.学習の速さは丸型マウスを除いて,デバイスごとの大きな差はなく,また高齢者と若年者でも差がないという興味深い結果が得られた.高齢者では,操作が速いデバイス程,学習が速いデバイス程,総合評価が高い.ただし,同じ速さでも使いやすさに差がでる事もあった.したがって,客観測定と主観評価の双方をあわせて評価する必要がある.
小峰一晃らは,テレビジョン放送の多チャンネル化を目前に控え,チャンネル選択などにリモコンによるグラフィカル・ユーザー・インターフェース(GUI)を利用した操作が受け入れられるかどうかを調査した.GUI はコンピュータなどで一般的であるが,テレビ操作に使用された事は今までになく,子供から高齢者まで広いユーザー層が想定されるテレビでGUI による操作が可能かどうか,従来のテレビとは操作方法が異なってくる事が予想されるため,どのようなリモコン方式がこのようなGUI 操作をする場合に「使いやすい」かを明らかにすることが目的である.GUI の操作にはポインティングデバイスが必要となる.


人間工学的な側面から各種リモコンの「使いやすさ」を評価するため,高齢者,若年者を対象にGUI での操作を想定した仮想画面を用いて種々のポインティングデバイスを備えたリモコンを操作させる評価実験を行った.各種リモコンの操作性について学習性や使用後のアンケート,主観評価を試みた結果,トラックボールが他のポインティングデバイスと比べ特に高齢者で学習の効果が大きいこと,平均操作時間では他のポインティングデバイスと比べて短くはなかったが,使用後の「使いたいリモコン」としては高い評価を得たことが報告されている.しかしながら,今回の実験では,トラックボールは高齢者で最も主観評価が低いデバイスの1 つにあげられたのに対し,若年者で2 番目に高い評価を得た.
障害者における結果は,一言でいうと,障害の違いによって使いやすいポインティングデバイスが全く違うということである.主観評価と客観測定の結果を総合すると,ポインティングデバイスの使いやすさは速く操作ができるということではなく,速く慣れることに大きく関係することが判明した.慣れるのが速いということは障害をうまくカバーできていることにつながると思われる.
これらをまとめると,主観評価とパフォーマンス評価は相補的で,両者ともに有効であろう.これに医学的なデータとして関節ごとの可動範囲や不随意運動の有無などを加えて,各個人に適切なデバイスの選択を可能とするチャートの作成が今後の課題である.
 
表1.主観評価と客観評価(順位のみ)
  主観順位(使いよい→悪い) 時定数順位(早い→遅い) 到達点順位(早い→遅い)
HA P&G トラックボール らくらく4 ボタン らくらくジョイスティック
  らくらく8 ボタン らくらく8 ボタン らくらく4 ボタン
  らくらく4 ボタン P&G トラックボール P&G トラックボール
  らくらくジョイスティック P&G ジョイスティック P&G ジョイスティック
  P&G ジョイスティック らくらくジョイスティック らくらく8 ボタン
  主観順位(使いよい→悪い) 時定数順位(早い→遅い) 到達点順位(早い→遅い)
KY P&G ジョイスティック らくらくジョイスティック らくらく4 ボタン
  らくらくジョイスティック P&G ジョイスティック P&G ジョイスティック
  らくらく4 ボタン らくらく8 ボタン らくらく8 ボタン
  らくらく8 ボタン らくらく4 ボタン らくらくジョイスティック
  P&G トラックボール P&G トラックボール P&G トラックボール
 
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