高齢者・障害者におけるコンピュータ用
各種ポインティングデバイス適応性(要旨)

情報社会科学部 教授 鵜飼 一彦
情報社会科学部荒井亜由美,高橋智美,本田充,川島譜美夫,水谷知治


1.はじめに

 パーソナルコンピュータ(以下,PC と略)の普及は目覚ましく,個人と社会の情報交換の接点として生活になくてはならないものになりつつある.しかし,社会的弱者においてはその操作の習熟の機会が少なく,また習熟に困難を来すことがあり,ディジタルデバイドとして社会的課題となっている.その反面,このような課題を克服した場合には,社会との接点が少なくなりがちな社会的弱者にとってこそPC が救いとなることも考えられる.ここでは,高齢者と上肢障害者におけるPC 操作上の障害となりうるマウス操作について検討する.
情報社会システム研究所では障害者のためのPC操作補助に関する研究グループ(通称キネックスグループ)を設置し,研究を進めてきたが,主要な学生メンバーが今春卒業したのを機会にこれまでの成果をまとめたので報告する.さらに詳細については論文としてまとめて情報社会科学論集に投稿する予定である.なお,本研究プロジェクトはこれでいったん終了する.しかし,このプロジェクトで得られた成果は,現在受託研究で行なわれているキーボードに関する研究等に引き継がれていく.また,得られた経験知識は本年度に本学部が名古屋市と共催して行なった「障害者のためのパソコン教室(受講者1‐ 2 名に対し1 名のTA が必要,また,デバイスのフィッティングを行うものが必要)」などの催しで活用できよう.一般に,PC と人間の接点であるヒューマン・インタフェースとしては,人間の感覚に対する情報授与装置であるディスプレイやそれを通して人間に情報を認知させるべきディスプレイ上の情報提示という出力装置と,人間側の意志をPC 側に伝えるキーボードやポインティングデバイスと言った入力装置がある.



入力装置は人間の運動機能を使用する.ポインティングデバイスは,PC の操作性を専門家以外にも容易にするために開発されたグラフィカルユーザーインタフェースとともに使用され始めた装置であり,画面上のポインターの座標を視覚的に確認しながら移動させる機能とポインターの指している場所で何らかの機能を行わせる意思伝達のためのスイッチからなる.その代表的なものがマウスで,移動部分とクリックと呼ばれる動作を行うスイッチから構成される.
PC 操作に障害を持つ人を対象にした装置には障害の程度に応じてさまざまなものがある.このようなユニバーサルアクセスを実現するためのデバイスは年々増加しており,一般的には得にくいデバイスに関する情報をまとめて発信する活動も活発に行われている.今回は,キネックスと呼ばれるシングルスイッチと画面上のキーボードとそのキーボード上を順次スキャンするシステムを組みあわせた補助入力システムを使用するほどの重度な障害者に関しては,連続的にシステムを試用してもらう機会はなかった.しかし,数年にわたって名古屋市昭和障害教育センターが行ってきた「障害者のためのパソコン教室」にデバイスを持参して補助にあたった経験の中でこれらのシステムの適応範囲についても理解できるようになってきた.
ここでは,障害者用ポインティングデバイスおよび一般用に開発された代替ポインティングデバイスを実際に高齢者および障害学生に試用していただき,使い勝手に関する客観測定と主観評価を行った.
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