図2:3条件における回旋速度ゲイン.被験者は 5名.誤差棒は被験者内の標準偏
 今回, 0.5 Hz の頭部ロール運動に対する反対回旋眼球運動を測定した. 速度ゲインの 5 名の平均値を求めると, see-through compatible mode, HMD mode で, 有意な差があり視覚抑制は 存在すると言えよう. しかし, その抑制は明らかに完全ではなく, 自然な反対回旋の 3 割程度を抑制す るに過ぎない. 水平眼球運動の場合には VORはほぼ完全に抑制される. このことは OKN で見られるよう に視覚により誘発された眼球運動がほぼ完全であることから説明される. しかしながら, 今回, 反対回旋 や視覚抑制の実験と同一の条件 (視野, 速度, 振幅, など) で測定された視覚誘発回旋眼球運動 (video mode) の速度ゲインは非常に小さいものである. この点から言えば, 3 割といえども視覚抑制が存在する ことは視覚誘発回旋眼球運動からは説明できないと考えられる. したがって, どのような機序で反対回旋 の視覚抑制が生じるかは不明である.
 以上のように, 前庭刺激と視覚刺激が矛盾したときには前庭刺激の方が優位になることが明らかとなっ た. 水平眼球運動では, このような矛盾が生じたときには, VOR のゲインが徐々に変化していくことが 知られている. ここでは, 一名の被験者を繰り返し測定することにより, 反対回旋にも順応現象が存在す ることが明らかとなった.
 今回新たに開発した, HMD に組み込まれた前眼部撮影装置を使用して, HMD 装着者の回 旋眼球運動を解析した. その結果, HMD の映像が回転しても大きな回旋眼球運動は誘発されなかったが, HMD では映像は頭と同様に動くため,

頭部の運動により生じる反対回旋眼球運動を映像が空間に対して静 止しているときと比べ約 30%抑制されることが明らかになった. これらの結果から, HMD 装用時の反対 回旋は非常に複雑な刺激要因を持つことが明らかとなった.  したがって, HMD 装用時の 「気持ち悪さ」 と 回旋眼球運動の関係も複雑なものであることが推測された. なお, この HMD による反対回旋の視覚抑制 により, 順応現象が生じることが推測された. 順応現象そのものは適応過程をあらわし, 問題となるよう なことはないと考えられるが, 頻繁に着脱することによって, 逆方向への順応が繰り返し生じる場合に は, 生体の健康への影響が生じることも考えられないことではない.

3. おわりに

 以上基礎的な研究について成果を報告したが, 今はむしろ本装置を映像の問題に使用するという本来の 課題に関心が移ってきている.
 今後は, 総合評価システムで得た多くのデータから意味のあるデータをくみ出すテクニックをさらに高 めて, 生体の異常を早期に見いだすための手法を最近はやりのデータマイニングにより見いだそうという 次期プロジェクトがシス協・EIAJ により始まることが決定し, 生体モニタリング機器開発を担当すること になっている.

BACK
RISS No.5 CONTENTS へもどる