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黒 い 色 −株式会社トッパン・グループ総研受託研究 「色と光に関する研究」 より− 情報社会科学部教授 秋田 宗平 |
光と色
光の無い或いは光の微弱なところに色はない. 黒はすべての光を吸収し, 光を発せず, 光の無いところに存在する. 夜明けや夕暮れに自然の色が刻々と変わる様を体験し, 光と色の密接な関係に気づく. 無彩色と有彩色 赤, 橙, 黄, 緑, 青, 藍, 紫と虹に見られる色をのみ色と呼ぶのであれば, 黒, 灰, 白は色ではない. しかし黒色という言葉があり, 黒も色である. 白も黒も色であるとゴッホはいっている. 色を二種類に分け, 虹の色を有彩色, 黒, 灰, 白を無彩色と呼ぶこともある. 黒の感覚
無彩色の黒は光を感じない色である. 黒い紙の光の反射率は零に近い. 黒い液体の光は透過率が零に近い. このためいずれの場合も網膜を刺激する反射光や透過光のエネルギーの強さは零に近く, 網膜単一視細胞の光の感受性の最小限界を超えて小さい, すなわち光エネルギーの強さが光感覚域以下の場合に生じる感覚が黒なのである. このことは黒が光の物理的エネルギー零にだけ対応する感覚ではないことを意味している. 光感覚域に対応する物理的エネルギー値が感覚零に対応すると考えることが出来る. |
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黒の知覚 黒の見え方と言う視点から黒を考えると次のようになろう. 漆黒の塗りの机の黒を考えてみよう. その机の表面に見る黒は, 黒く光る鏡であり黒の中に例えば紅葉の鮮やかな彩りを映し出している. 鏡面のように光る色としての黒は, 彩りを黒の中に含ませて見せるのである. 黒は黒以外に何も感じさせてはならない感覚であるとすると, 光る黒は黒ではない. すべての光を, すべての色を感じさせない感覚が黒なのである. あるものすべてを吸い込んでしまった結果として黒色を概念的に理解することもできよう. 白と黒
これに対して白はすべての光をすべての色を一様に含む色となる. 白も黒と同じく, その色以外にどのような色も感じさせてはならない感覚である. しかし白はすべての色を加えた反射, 透過光の結果生まれる感覚である点で黒とは相容れない概念である. 色の三属性 一般の色は, 色相, 明度及び彩度の色の三属性によって示されるのが常である. しかしこの三属性だけで表すことの出来るのは照明色だけである. 我々が日常見ている物体色は大きさ, 表面の肌理の細かさ, 光沢, などの属性を持ち, さらに時間的に変化したり, 空間的には単独で存在しているよりは, 他の色と共存して互いに影響を及ぼすなど, 物体色の表示は三属性だけでは十分でない. 対比による黒
見ている色は周囲の色から影響を受け, 周囲の色は見ている色の影響を受けている. 実際に感じている色はこれらの相互関係の結果であり, 単独で見る色とは異なる. 例えば, 同じ反射率の黒い紙であっても, その黒さは背景によって異なって感じられる. |