日本福祉大学チャレンジファイル学環編 第三部
【子ども×地域づくりcross talk】
吉村輝彦(地域づくり)× 野尻紀恵(社会福祉)
人が育ち、まちが育つ
─関係の循環をデザインするということ
国際学部 国際学科
大学院国際社会開発研究科 国際社会開発専攻(修士課程)
福祉社会開発研究科 国際社会開発専攻(博士課程)
吉村 輝彦 教授
社会福祉学部 社会福祉学科
大学院福祉社会開発研究科 社会福祉学専攻
社会福祉学研究科 社会福祉学専攻
野尻 紀恵 教授
テーマ
「誰が育てるのか」ではなく、
どうすれば“育つ関係”が生まれるのか。
子どもや地域を取り巻く状況は、単純に「問題が増えた」という話ではありません。人口減少や家族形態の変化により、子育ての負担は家庭だけで抱えきれなくなりつつある一方、地域のつながりは弱まり、相談や助け合いの相手を見つけにくいという現実があります。さらに、教育・福祉・医療・都市計画といった制度は、それぞれ別の仕組みとして発展してきたため、横断的な課題に対応するのが難しい場面も少なくありません。
こうした課題に対し、日本福祉大学は「ふくし」を軸に多様な専門性を結びつけ、現場で起きている変化と学問を往復させながら、新しい公共のあり方を探ってきました。今回の対談企画も、その流れの中に位置づけられる取り組みです。
異なる専門領域を持つ研究者が、それぞれの視点から「子ども」「地域」「公共空間」を見直し、重なる部分を探っていくこと。それは、個別の課題を超えて、社会の構造そのものをどう更新していくのかを考えるきっかけにもなります。
今回は、まちづくり・都市計画の立場から「まちを育くむ」という視点を提示する吉村輝彦教授と、教育・福祉の実践から「子どもをまんなかに置く社会」を探究する野尻紀恵教授が、都市と福祉、教育と地域の交点にある可能性を語ります。子どもをまんなかに置くことで、社会の公共性はどのように変わり得るのか。その問いを手がかりに、次の時代の地域社会を考えていきます。
INTERVIEW
論点① “つくる”ではなく“育くむ”
公共空間は「つくる」ものではなく、「育くむ」ものなのではないかという視点について、改めてお聞きしたいと思います。吉村先生、まちづくりの立場からいかがでしょうか。
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吉村
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これまでの都市計画は、公園や広場、施設といった“空間(space)”を整備することに力点が置かれてきました。しかし、空間が整うことと、人の関係が育つことは必ずしも一致しません。実際、日本社会では物理的な空間は豊かになってきた一方で、「使われていない公共空間」が数多く存在しています。重要なのは、そこに人の営みや経験が重なり、意味が付与され、「場所(place)」へと転じていくプロセスをどのように支えるのかです。
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野尻
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福祉の文脈でも同じことが言えます。1995年に発生した阪神淡路大震災が発生し、その復興の過程の際には、神戸・長田区で、遊び場から子ども食堂が生まれ、さらに地域の多様な人の居場所へと広がっていった事例があります。最初から完成形の“施設”を設計したわけではなく、子どもや地域の人の声に応じながら場が“育っていった”のです こうした過程は、「支援を与える場」を一方的に設計する発想では捉えきれません。そこに集う人々が意味づけに関与し続けるからこそ、場は生きた場所へと変わっていきます。
そう考えると、「大きな箱を一つ建てれば解決する」という発想には限界があるということですね。
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吉村
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はい。むしろ、まちのあちこちに小さな関わりの芽が生まれ、それが時間とともに更新されていくことが重要です。そのように“育くんでいく”プロセスをデザインする視点が、まちづくりでは欠かせないのだと思います。
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野尻
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そして、その成長の担い手は、専門職や行政だけではありません。地域の大人、子ども、学生など、多様な人が関わりながら「自分たちの場」として関係を更新していく。そうした“共に関わる”あり方が、結果として福祉的な機能を強化していくのだと思います。
論点② “支援する”ではなく、“共に育つ”
続いて、福祉の根幹である「支援」の概念について伺います。お二人の議論を伺っていると、「支援する/される」という関係だけでは捉えきれない実践が見えてきます。
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野尻
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ソーシャルワークの視点から見ると、人は単にサービスを“与えられる”だけでは力を十分に取り戻せません。重要なのは、本人が本来持っている力が発揮されていくこと、つまり“エンパワーメント”が起こることです。
子ども食堂やプレイパークの現場でも、子どもだけではなく、保護者、地域の高齢者、学生ボランティアなど、関わる人すべてが少しずつ変化していく姿が見られます。“支援する側/される側”という垂直的な関係ではなく、“共に育つ関係”が立ち上がっているのです。
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吉村
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そこは、都市の視点とも響き合います。都市計画は、“空間を整備して提供する”という発想になりがちですが、まちづくりは、本来、そこに関わる人自身が、場をつくり変えていく、育んでいく主体でもあります。関わり続けられる余地や余白——つまり、「関わりしろ」があるからこそ、人は参加し、学び、育つことができる。この点で、ふくしの相互エンパワーメントとまちのプレイスメイキングは本質的に接続していると感じます
つまり、“支援のプログラム”をデザインすることだけでは足りず、“ともにあり続ける”関係をどのように保障するのかが問われるのですね。
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野尻
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はい。これは支援の効率性や成果だけでは測れない領域です。むしろ、時間をかけて一緒に過ごし、小さな経験を共有し続けることが、最も大きな変化を生み出すのではないでしょうか。
論点③ “空間”ではなく、“時間の文化”
お二人の議論の中で印象的だったのが、「空間・時間・仲間」という“三つの間”という視点でした。これはどのような意味を持つ概念なのでしょうか。
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野尻
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子どもの育ちを考えるうえで、「空間」「時間」「仲間」という三つの条件は不可欠です。空間だけが整っていても、そこに時間の余裕がなければ関係は生まれませんし、そこに人がいなければ意味を持ちません。
近年は屋内遊戯施設など“場”の整備は進みましたが、一定の利用時間の中で各家庭が孤立したまま滞在するケースも見られます。大切なのは「どのように時間が流れているのか」、そして、「誰と経験を共有するか」という“時間の文化”なのです。
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吉村
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都市計画でも、空間重視の発想に偏ると、「整備したのに使われない場所」が生まれます。そこには、時間をともにする関係がデザインされていないという問題があります。
人が変わるには時間が必要であり、その時間を共有する仲間が必要です。空間・時間・仲間が重なり合い、経験が蓄積されていくとき、初めて“プレイス”が立ち上がる。これはまちの持続可能性を考える上でも重要な視点だと考えています。
日本福祉大学のキャンパスでも、そのような実践の“芽”が生まれているようですね。
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野尻
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はい。キャンパスの中に、食、学び、遊びを媒介にした多様な関係の“単位”が立ち上がりつつあります。これは、大学が単なる学習空間ではなく、人が共に変化する“社会的空間”として機能する可能性を示していると思います。

論点④社会への提言——大学から始まる「エンパワーメント都市」
議論の最後に、この視点を社会全体に広げたいと思います。これからの公共空間は、何を目指すべきでしょうか。
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野尻
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私は、公共空間を「共に育ち合うための場」として再定義したいと考えています。人が力を失っていくプロセスを止め、再び力を取り戻していくためには、安心して声を出し、失敗し、頼り合える場が必要です。それは単にサービスを受け取る場所ではなく、“内的な力が再び使えるようになる空間”である必要があります。
全国で「スマートシティ」が現在、社会実験として行われていますが、それとは異なり、本学が中心となって、“エンパワーメント都市”があってもいいんじゃないかと思っています。
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吉村
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まちづくり・都市計画の観点から見ても、大学キャンパスが多様な人が交わる場になるポテンシャルがあります。キャンパスを、単なる“教育空間”として閉じるのではなく、空間・時間・仲間のサイクルが生まれ続ける場として開いていくことが重要です。
「巻き込む」のではなく、「やりたい人が関われる構造」をどのように増やしていくのか。その積み重ねが、大学を小さな都市へ、そして、社会へと接続する回路を形づくっていくのだと思います
最後に一言、まとめとしていただけますか。
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野尻
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大学や地域が閉じるのではなく、共に学び、共に育つ公共空間として開かれていく。その可能性を、日本福祉大学は強く秘めていると思います。

終わりに──子どもをまん中にしたまちづくりにあるヒント
子どもをどこに位置づけるかによって、社会の構造や公共性のあり方は大きく変わります。今回の議論から見えてきたのは、子どもを「守る対象」として囲い込むのではなく、「ともに生きる存在」としてまんなかに据えることが、地域そのものの関係性を再構成する契機になるという視点でした。
吉村教授は、まちづくりを空間整備の問題としてではなく、関係が時間とともに育っていくプロセスとして捉え直す必要性を示しました。一方で野尻教授は、福祉や教育の現場での実践から、子どもをまんなかに据えることが「支援する/される」を超えた“共に育つ関係”を生み出すと指摘しました。両者の議論は、「場をつくる」から「関係が続く文化を育てる」へという共通の方向性に収束しています。
大学は、その実験を進めることのできる重要な公共空間です。多様な人が集い、失敗や試行錯誤を許容できる環境だからこそ、子どもを手がかりに、地域と共に育ち合う社会のモデルを提示することができます。
子どもが安心して声を出せる社会は、大人も自分を責めずにいられる社会です。
子どもと共に育つ地域を構想することは、人が力を取り戻し、関係を更新し続ける社会を構想することでもあります。
その実験のフィールドとして、日本福祉大学が果たす役割は小さくありません。子どもをまんなかにしたまちづくりのヒントは、「空間」ではなく、「関係が育つ文化をどのように支えるのか」にあるのではないでしょうか。
- 国際学部 , 社会福祉学部
- くらし・安全


