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#52 過疎地域と福祉

「やってみよう精神」で
地域と利用者さんをつなぎ、
間伐材プロジェクトに挑戦。

社会福祉法人昭徳会小原寮 勤務
(2022年3月 日本福祉大学国際福祉開発学部国際福祉開発学科卒業)

鈴木志歩

2022年、社会福祉法人昭徳会小原寮に就職した鈴木さん。事務職の傍ら、間伐材活用プロジェクトの委員長として、過疎に悩む小原地域の課題対策と、利用者の社会参加を支援しています。鈴木さんに、間伐材活用プロジェクトについて話を聞きました。

社会課題

広がる過疎地域、期待される福祉。

 「過疎」とは、地域の人口が減り、その地域で暮らす人の生活水準や生産機能の維持が困難になってしまう状態をいいます。過疎市町村の数は885、全国の1,718市町村の51%に当たります (令和4年4月1日現在) 。過疎市町村の人口は約1,162万人余(令和2年国調人口)、全国の人口の9%余に過ぎませんが、その面積は日本国土の約6割を占めています。

 過疎市町村では高齢化が進み、地域の主産業だった農林水産業の停滞や、商店や事業所などの閉鎖といった産業経済の停滞傾向が見られます。また、生活に必要な下水道や情報通信施設などの住民の生活基盤もまだ都市地域に比べ格差を残しているものが多く、厳しい状況が続いています。このような厳しい状況のもと、それでも過疎地域は森を守り、水を守り、田畑を守り、日本の文化を守り、国民の心のよりどころとなる美しい国土と環境を未来の世代に引き継いでいこうと努力しています。そうした過疎化の進む地域の活性化を図る上で注目されているのが、農福連携の取り組みです。農業と福祉の分野が連携し、障害者や高齢者、生活困窮者などが農業分野で就労や生きがいを見つけ、地域社会の活性化につなげる取り組みです。

参考・引用: 一般社団法人 全国過疎地域連盟 「過疎」のお話

INTERVIEW

障害者支援をめざして就職した。

最初に、鈴木さんが小原寮に入職された動機についてお伺いします。

鈴木

私は兄が障がいがあり、小さい頃から福祉サービスが身近にありました。その頃、母は兄に手がかかり、父は仕事がありましたが、福祉サービスがあったおかけで、部活動や習い事など他の子と変わらない生活を送ることができました。私も社会に出たら、私と同じような境遇の子どもたちがより良い生活を送れるようにサポートしたい。そんな思いから、障害者福祉の分野に進みました。

就職された小原寮、そして豊田市小原地区について簡単に教えてくださいますか。

鈴木

小原寮は、社会福祉法人昭徳会が運営する小原福祉ビレッジの施設の一つで、主に18歳以上を対象にした障害者入所施設です。このほか小原福祉ビレッジには、小原学園(18歳以下を対象にした障害児入所施設)、小原安立(特別養護老人ホーム・高齢者グループホーム事業を行う施設)があります。小原福祉ビレッジのある小原地区は自然豊かで気持ちのいいところですが、人口の減少や高齢者の増加、農地や森林の荒廃などの課題を抱えています。過疎地域ではありますが、私自身、田舎で育ったので、それほど違和感なく馴染むことができました。

寮長の声かけで始まった農福連携の取り組み。

小原寮では「農福連携」に力を入れていると聞きました。

鈴木

はい。2020年に新しく就任した成瀬友昭寮長の声かけで、2023年から農福連携(障害者が農業分野での活躍を通じて、自信や生きがいをもって社会参画を実現していく活動)の取り組みが始まりました。小原地区には、高齢で米づくりをやめた方もいらっしゃって、休耕田が増えています。そこをお借りして、地域の方に教えていただきながら、利用者さんたちが田植えをして、お米を育て、収穫したお米を販売させていただいています。初めて収穫されたお米は私たちスタッフや利用者さんもいただきましたが、とてもおいしかったです。寮長はこれからもっと田んぼを増やして、就労支援もできたらと考えているようです。

間伐材の取り組みも、その延長線上にあるのでしょうか。

鈴木

そうですね。最初、地域共生の観点から、地域の困りごとに対して何かできないだろうか、というところから検討が始まりました。みんなで意見を出し合っているなかで、小原地区は間伐を行う人がいなくて森の荒廃が進んでいることに着目し、私たちや利用者さんの力で何かお手伝いできないかというところに辿り着きました。ゆくゆくは間伐材で薪をつくり、薪ユーザーを小原地区に呼び込んだり、キャンプの好きな人に移住してほしい。そんな大きな目標を立てて、2023年、間伐材活用プロジェクトが動き出したのです。

「間伐とは何ぞや」というところからスタート。

間伐材活用プロジェクトのなかで、鈴木さんはどんな役割を担っていますか。

鈴木

実は委員長に任命されてしまったんです。それまでの仕事は事務職ですから、間伐材との関わりや地域の方と触れ合う機会もそれほどありませんでした。委員長と言われ、まず「間伐とは何ぞや」というところから学び始め、ネットで「こんな事例がある」「こんなふうに間伐材が活用されている」というような情報を見つけては話を聞きに行ったりして、私たち小原寮で何ができるか探っていきました。

なるほど、本当に一からのスタートですね。

鈴木

はい。始めは小原地区の喫茶店に通って「どこか木を切っていいところを紹介してもらえませんか」とお願いして回ったりしていました。地域の方も最初は戸惑われたようですが、次第に理解してくださって「こういう加工業者さんがいるけど紹介しようか」「こういうふうに薪を集めたらどう?」とか、いろいろな方が貴重な情報を教えてくださって、小原の人たちの温かさを感じました。また、まずは私たちスタッフが木を切る技術を身につけなければと考え、チェンソー資格取得をめざしてチェンソー研修会などで学びました。

現在はどんな活動をされていますか。

鈴木

実際に山に入って木を伐るのは、林業のプロでないと難しいです。そこで、私たちは地域の方や行政の方から間伐材をご提供いただき、それを加工する作業を担っています。まず初めに、いただいた間伐材を職員がチェンソーで玉切りにして、その後の薪割りや運搬などの作業を利用者さんに手伝っていただきながら、薪棚に並べて乾燥します。この薪棚も大工さんに指導してもらって、自分たちでつくりました。商品化としては、利用者さんが中心になって、ストラップやネームプレートにオリジナルの焼き印を押して、地域のマルシェで販売しています。「次は鉛筆立てをつくろうか」など、会議で意見を出し合ってグッズを決めています。マルシェでたくさんの方が喜んで買ってくださって、利用者さんも私たちもとても楽しんでいます。商品化では、木の本来の良さを活かしたものづくりを志しています。そのため、林業見学ツアーに参加し、木のことも学びながら取り組んでいます。

間伐材活用を通じて、小原地区の魅力を発信。

今後の目標をお聞かせいただけますか。

鈴木

ゆくゆくは職員と利用者さんが一緒に地域の森林に入って、木を切るところまでもっていきたいですね。その前段階として、木材を加工する機械を導入して、ある程度簡単な作業は利用者さんにしていただくような体制を整えていく計画です。販路についてもどんどん広げていきたいですし、やりたいことは山積みです。

そんなふうにモチベーションを維持できる秘密はなんですか。

鈴木

それは、大学時代の活動が大きいかもしれません。大学ではSDGsについて学ぶゼミをとっていて、フィールドワークでいろんなところに足を運び、知らない人に会う機会が多くありました。そこで、すごく度胸がついて、とりあえずやってみる大切さを実感しました。その経験があるので、今もできるかわからないけれど「とりあえずやってみよう精神」でなんでもチャレンジできているのだと思います。

最後に小原地区の魅力と可能性についてお考えをお聞かせください。

鈴木

小原地区は過疎地域と言われていますが、なかに入ってみると、地域の人々は温かく、自然は豊かで気持ちよく、小原歌舞伎や小原和紙などの伝統文化も大切に受け継がれています。その良さがあまり知られていないのはもったいないなぁと思います。もっといろんな人、若い人に知っていただき、一緒に新しいことに取り組んでいけたら楽しいですね。そのために、これからも地域の人と力を合わせていきたいと思います。

(福)昭徳会 小原寮のチャレンジ

過疎化が進む豊田市小原地区。広々とした小原福祉ビレッジの敷地に、障害児施設、特別養護老人ホーム・高齢者グループホームとともにあるのが、障害者施設「小原寮」です。利用者は20〜70代の約140名、職員は約70名。全員が力を合わせ、地域交流に取り組んでいます。

小原寮の活躍が、
里山の過疎化を救う
チカラになる。

社会福祉法人 昭徳会 小原寮

愛知県豊田市沢田町座内22番地

https://www.syoutokukai.or.jp/obararyou/

休耕田の再生に取り組み、おいしいお米を収穫。

 小原寮の人々が地域交流に積極的に乗り出したのは、コロナ禍の頃でした。当時、利用者も職員も施設内に引きこもり、閉鎖的な日々を過ごしていました。もっと地域に出て、地域の人々に喜んでもらえることをしていこう。そんな寮長の呼びかけで、地域の困りごとを探っていったところ、高齢化で田んぼを諦める農家が増えている問題が浮かび上がってきました。

 もともと小原地区は水がきれいでおいしいお米の産地でしたが、お米の生産は年々減っています。そこで小原寮では農福連携プロジェクトを立ち上げ、無農薬による稲作に挑戦することになりました。まず2023年冬より、一軒の農家から高齢のため稲作をやめたいと相談を受け、田植えから稲刈りまで行ったところ、農家の方から大変喜んでいただきました。この評価が口コミで広がって農家からの申し込みが増え、2024年の2反から、2025年には4反の休耕田を借り受けるところまで発展しました。田植えには多くの工程があり、障害者が自分の障害の程度に合った作業を見つけやすい利点があります。また、土に触れることで多くの障害者がイキイキとした表情を取り戻し、精神的にもいい影響を与えています。さらに、田んぼの管理では地域の人から多くの協力を得て、地域の人と職員・利用者の交流も深まっています。

間伐材の積極活用で、山を荒廃から守る。

 休耕田と同時に注目された課題が、山の荒廃でした。小原地区では高齢化と労働力不足から間伐などの森林管理が滞り、山の荒廃が進んでいます。この状況を食い止めるために、小原寮では間伐材活用プロジェクトを立ち上げ、若い職員が中心となって企画を練り、事業を進めてきました。メインの業務は薪づくり。行政や地域住民から提供された間伐材を、職員と利用者が協力して薪をつくり、キャンプや薪ストーブ用に販売しています。このほか、間伐材を加工したグッズの開発にも取り組んでいます。

 農福連携プロジェクトと間伐材活用プロジェクト。これらのプロジェクトを通じて小原寮がめざすのは、小原地区の活気を取り戻していくことです。たとえば、農福連携では今後、田んぼの面積をさらに増やし、施設の利用者だけでなく地域で障害を持つ人も仲間に誘い、障害者が働いて収入が得られる組織(就労継続支援B型事業所)をつくっていく構想をもっています。一方の間伐材活用プロジェクトでは薪づくりを発展させ、「田舎で薪ストーブの暮らしがしたい」という移住希望者にアピールしていく計画もあります。小原寮の活躍が、地域の過疎化を食い止めるエンジンとなるように、職員や利用者の挑戦は続いていきます。

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