日本福祉大学

日本福祉大学 学園創立70周年記念サイト

日本福祉大学チャレンジファイル 日本福祉大学チャレンジファイル

日本福祉大学チャレンジファイル学環編 第二部

「つながりを設計する」建築の力
─空間から読み替える保育と公共性

工学部 工学科 建築学専修

村井 裕樹 准教授

村井 裕樹 准教授の主な研究分野は、福祉住環境計画と建築防災計画。人を主役にした建築・都市環境について研究を深め、超高齢社会を見据えたバリアフリー設計などについて研究・実践に取り組んでいます。

テーマ

誰もが使う“公共空間”は、もっと人に寄り添えないか。

行政機関の建築、図書館、博物館、美術館など、私たちに身近な公共性のある建築のなかには、人との距離を置き、それら建築の機能を優先するあまりに人との距離を置くような雰囲気を感じるものも見受けられます。人は建築に近づくにつれて「建築に受け止められる」必要がありますが、そのような空気を感じにくいケースがあります。形式上は「開かれている」のに、人に寄り添ってくれない施設が存在しています。

公共性のある建築は本来、人と人をつなぎ、安心して立ち止まれる「居場所」であるはずです。ところが実際には、デザインの話題性や、その建築が持つ機能が優先され、居心地や使いやすさが置き去りにされることがあります。その結果、“使えるけど、何故か使いにくい”空間が生まれています。

例えば、建築に近づいても内部の雰囲気を感じ取れず不安を覚える、建築に入っても受付までの動線が複雑で分かりにくい、本当に利用者が必要とする場所に案内表示がない──。こうした小さな設計への配慮不足が積み重なることで、公共空間は「誰でも使える」はずなのに、人との距離を置いてしまうことがあるのです。

さらに、公共空間が誰にとっても心地よいものでなければ、個人の体験にとどまらず、社会全体の関係性にも影響を及ぼします。偶然の出会いや自然な交流の機会を失えば、地域コミュニティは弱まり、社会において個が独立してしまい、個と個の関係性が進まない。公共建築のあり方は、単なる建物の課題ではなく、社会が人と人のつながりをどう扱うかを映し出す鏡でもあるのです。

こうした課題に向き合ってきたのが、建築と福祉の交差点に立つ 村井裕樹准教授です。村井先生は「建築設計とは“場の空気”を創造すること」ではないかと問いかけます。人が安心し、自然体で関わる空間をいかに生み出すか。その設計が、公共性を支える基盤であり、社会のつながりを左右する。

第二部では、村井先生に、建築が人に寄り添うために求められる要素、そして保育園を起点に広がる新しい公共空間のかたちについて伺いました。

INTERVIEW

曖昧な場が人を迎え入れる

人と人をつなぐ空間を実現するためには、どのような工夫が必要なのでしょうか。

村井

私は「曖昧な場」がとても大切だと考えています。用途が細かく決められた空間では、人の動きも関係も限定されます。しかし、使い方が決め込まれていない柔らかい場があると、誰にとっても開かれた余地となり、自然に立ち止まったり、言葉を交わしたりするきっかけになるのです。

曖昧さが、人を近づける契機になるのですね。

村井

そうです。たとえば、建築の入口前後に「なんとなく溜まることができる場」「なんとなく目が向く場」を設けると、そこを利用する人同士に関係が生まれることがあります。役割を固定しない空間は、利用者の距離を柔らかく縮める力があります。これは建築に限らず、たとえば公園でも、遊具だけでなくパーゴラ(格子状の屋根のある構造物)を設ければそこに自然と人が集い、最初は無関係だった親同士や子ども同士の交流が育まれることも期待できます。

確かに、曖昧な空間には人を迎え入れる余裕が感じられます。

村井

ええ。建築の世界では「無駄を省く」ことが求められがちですが、私は一見“無駄”に見えるゆとりが、人に安心を与える要素になると思います。その場に求められる機能が完璧に提案されている場よりも、少しの曖昧さがある方が落ち着ける。利用者は「ここに居ると何故か心地いい」と感じ、その経験が人と人の関係を支える基盤にもなってくると思います。建築の価値は、機能を満たすことだけでなく、人を迎え入れる柔らかな場を設けることが大切だと思います。

保育園は地域と社会をつなぐ“縁側”である

ここまで公共建築の課題や曖昧な場の可能性を伺ってきました。では、それを保育の現場に重ねると、どのような意味が見えてくるのでしょうか。

村井

江村先生が語られていた“縁側”という表現は、建築の立場から見ても非常に示唆的です。縁側は日本の住まいにおいて、屋内と屋外、家族と地域をゆるやかにつなぐ中間領域でした。強い境界でもなく、完全な開放でもない。その曖昧さが、人を迎え入れる余白を生んでいたのです。

建築の歴史においても、人を結ぶ空間だったのですね。

村井

そうです。保育園を例にすると、玄関や園庭は単なる出入り口や遊び場ではなく、縁側的な中間領域として捉え直すことができます。送り迎えの保護者が自然に立ち話をしたり、保育士と気軽にやり取りできる場。そこに居場所となるスペースがあれば、園が持つ地域における子育ての核の役割がさらに広がります。

小さな仕掛けが、保育園を社会につなぐ装置になるわけですね。

村井

ええ。保育園は子どもの成長を支える場であると同時に、大人にとっての安心できる居場所でもあるべきです。大人が安心している空気感は子どもに伝わり、地域へと信頼の連鎖を広げます。縁側のような人を受け入れる曖昧な場があれば、人々は「ここに居たい」と感じ、子育てに孤立感じている人も心が和らぐきっかけにもなる。縁側的な中間領域は、制度や仕組みだけでは生み出せない関係を支える役割があります。そして、これは保育園に限られません。様々な人が関わる公共建築や福祉施設、公園や広場など、あらゆる公共空間にも当てはまります。人を迎え入れる余白をどう提案できるか──その問いにどう応えていくか、建築人との関わりをより良くするテーマであると考えています。

まとめ

公共建築は「立派に建てる」だけでは人を迎え入れる力を持ちません。村井先生の言葉から見えてきたのは、建築が果たすべき本質的な役割──利用者に安心を与え、関係性を支える機能を設計することでした。縁側という比喩に込められた思想は、保育園だけでなく、様々な人が関わる公共建築や、公園といった公共空間すべてに通じる視点です。建築は人と社会を結ぶ場であり、そのあり方が公共性や地域社会の質を左右していくのではないでしょうか。

  • 工学部 工学科
  • くらし・安全
一覧ページへ戻る