#21 地域福祉と災害ソーシャルワーク
災害時と平常時をつなぎ、
地域の免疫力を育む。
福祉経営学部
医療・福祉マネジメント学科
山本克彦 教授
山本克彦教授の研究分野は、社会福祉学、教育学。大学生の頃は自らがさまざまなボランティアに参加。大学教員になってからは、東日本大震災をはじめ多くの被災地において、災害ボランティアセンターの設置・運営支援に携わってきました。特に「大規模自然災害における学生ボランティアの組織化と運営」の実践を重ね、災害福祉、災害ソーシャルワークについての研究を深めています。
社会課題
地域ごとに異なる、災害ソーシャルワークのあり方。
日本では近年、大規模な自然災害が相次いでいます。気候変動に伴う水害や土砂災害に加え、地震の発生頻度も増加しています。
地域福祉の視点から災害ソーシャルワークを考えるとき、忘れてはならないのは、復興のプロセスは地域ごとに異なるという点です。災害の状況や地域の風土・特性によって、問題解決の道筋はさまざまです。たとえば、ある地域では過疎化が課題であり、別の地域では祭りの存続が住民の関心事になるなど、文化や歴史によって復旧・復興の方向性は変わります。条件(変数)が増えるほど複雑さを増し、無数の解が導かれる関数のように、災害ソーシャルワークのあり方は多岐にわたります。
しかし、過去の成功事例をそのまま踏襲して災害復興に取り組もうとする動きも少なくありません。たとえば、「熊本地震ではこの方法が功を奏したから」と、令和6年能登半島地震に同じ手法を当てはめても、必ずしも効果的な対策にはなりません。なぜなら、災害の様相や地域の資源、被災者のニーズは一つとして同じではないからです。だからこそ、現場の状況を丁寧に見極め、柔軟な感性と創造的な思考で復旧・復興に臨むことが求められます。
災害ソーシャルワークに必要なのは、こうしたしなやかな対応力です。そして、その取り組みの中心には、被災者の生活再建を軸に、被災地主体の視点と、多様な支援者による協働が欠かせません。
INTERVIEW
災害支援のボランティア経験をベースに。
先生が災害支援に興味をもったのはどういう経緯からですか。
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山本
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もともと学生時代から被災地の支援に携わり、社会人大学院生でもあった時に発生した阪神淡路大震災(1995年1月17日)のボランティアに行きました。その後、大学院を修了し、教員として岩手県立大学に勤めていたとき、新潟県中越地震(2004年10月23日)、続けて新潟県中越沖地震(2007年7月16日)が立て続けに発生。学生たちと一緒に被災地へ通って支援するようになったのが、災害現場との関わりの始まりです。被災地に出向くと、地域に住んでいる人のことがよく見えます。そこで、福祉のこと、集落のこと、復旧・復興のことを考えるようになり、災害が起こるたびに、災害ボランティセンターの運営支援に学生たちが関わるという経験を積んでいくことになりました。
新潟県中越沖地震の4年後に起きたのが、2011年3月11日の東日本大震災でした。
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山本
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ええ。あのときは、それまでの経験を活かし、学生ボランティアを組織化することを考えました。発災後の4月末からの大型連休、沿岸の被災地に近い公民館を借用し、ボランティア拠点を整備したのです。さらに数か月後、夏休み前になると、メディアでは「被災地が復旧・復興してきた」という報道がされるようになりました。「そんなわけはないし、このままにしてはいけない」という思いをもった学生たちから、「夏休み期間に全国から学生ボランティアを呼ぼう」という声があがりました。それが「いわてGINGA-NETプロジェクト」です。被災地の大学として岩手県立大学が中心となり、他府県の学生ボランティアを受け入れるしくみをつくりはじめました。全国の学生に声をかけたところ1000人以上の学生が賛同してくれました。私たちは資金の準備や支援内容のリストアップ、ボランティアのグループ分け、行き来のバスの運行、宿泊地などを整備し、支援に通い続けました。
東日本大震災の支援を通じて得たもの、感じたこと。
東日本大震災の支援で、どんなことを感じられましたか。
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山本
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まず、学生のボランティアはものすごく大きな力になると改めて感じました。学生たちは現地の高齢者にとっては「うちの孫と同じ年頃」ですし、現地の子どもたちにとっては「お兄ちゃん、お姉ちゃん的な存在」で、親近感を感じてもらいやすい存在です。学生が壊れた屋根の瓦を運び出すと、「ありがとうね」と言われる。それは支援の専門家に対する「ありがとうございます」とは違って、現地の人が本音で返してくれる言葉のように感じました。また、学生たちは皆、純粋な思いをもっていくので、現地の人のお話を聞きながら、一緒に涙する姿も見られ、心の底から現地の方々に寄り添っていると実感しました。
学生だからこそ、心のピュアな部分が寄り添う力になるんですね。
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山本
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そう思います。また、学生だからこそ、活動の体験を未来へ活かすことができます。活動を終えるとき、私は「ここでの経験を持ち帰って、それぞれの地域で活かすことを考えてください」と学生たちにお願いしました。被災地での体験を通して、気づき、考えるという“ふりかえり”から、さらに“もちかえり”という大切なプロセスへとつなぎます。たとえば、高知から来ていた学生のもちかえりの例をお話ししますと、その学生は仮設住宅のおばあちゃんから、地域の魅力についていろいろ話を聞いたそうです。そのときに「もう、あの町は見られない」と言われたことが深く心に響いたと語ってくれました。その学生は高知に帰り、被災地の「被」を、「未」に代えて、「未災地ツア一」を行ったそうです。そこには「未だ災害が起こっていない」という意味を込めたといいます。高知は南海トラフ地が必ず起きると予想されていますから、「この町を今のうちに見ておこう」と、住民に声をかけ、一緒に身近な地域を歩いたといいます。「もうこの町を見ることはできないかもしれない」という強烈なメッセージとともに、災害時を考えるという素晴らしいアクションだなと思いました。
支援した学生それぞれが大きな収穫を持ち帰るわけですね。
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山本
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ええ。被災地で学ぶことをボランティアの目的にしているわけではありませんが、そこには多くの気づきがあり、結果的として学習、教育の実践となっていきます。また、高知の学生のように、ボランティア体験を持ち帰る人が増えていったら、それが、それぞれの地域の災害レジリエンスの強化につながっていくと思います。レジリエンスは回復力の意味で、災害レジリエンスは災害が起きてもそこからしなやかに復興していく力を指します。被災地の支援を経験した若者が中心となって、地域それぞれの防災や減災の力を高めていくことができれば理想的だと考えています。それがつまり災害レジリエンスにつながるのです。
災害時に求められるソーシャルワークとは。
先生の研究テーマである災害ソーシャルワークについて教えていただけますか。
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山本
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はい。想定外の大規模災害のような不測な事態で、私たちは何ができるのか、何をすべきか。人々の命を守る「災害看護」という分野があるのと同様で、その命につながる人々の生活を守る「災害福祉」という分野があり、「災害ソーシャルワーク」の専門性が求められています。ここまでお話しした学生ボランティアの活動も、まさに災害ソーシャルワークにつながるものです。ただ、ソーシャルワークという軸から考えますと、まずは地域ごとに普段のソーシャルワークのプロセスがあります。ソーシャルワーク、すなわち社会福祉援助の観点から地域の課題を見出したり、課題をもった人が相談に来たりするところからスタートし、その課題を解決するために計画をたて、モニタリングし、評価し、見直していく。そのプロセスをぐるぐる回していくのが、普段のソーシャルワークですね。災害時も全く同じように、誰がどう困っているか見出し、どうすれば解決するのか考えて、いろいろな人が関わっていくプロセスをぐるぐる回していくことになります。
普段の取り組みを災害時にも活かしていくということでしょうか。
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山本
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そうです。地域の課題を見出し、地域の一人ひとりがそれぞれの幸せを実現できるように支援していく。災害時も、そんな「地域福祉」の考えをベースにしなくてはならないと思います。その意味で、能登半島の復旧・復興については問題点も感じています。石川県では、被災者の関連死を防ぐために、大きな1.5次避難所が金沢につくられたほか、ホテルや旅館なども用意され、被災した多くの人が各地に移動しました。それは素晴らしいことですが、ホテルなどでは、ロビーにお弁当が積んであって、それぞれが部屋で食べて過ごす生活だったそうです。そうなると、一人ひとりが孤立するし、つらさを共有する仲間もいない。集落ごとに移動できたわけではないので、その村をこれからどうするか語り合うこともできないわけです。そのなかで「あの村に人は帰ってくるのだろうか」と被災者がぽつりと呟いたりするわけです。すなわち、地域コミュニティが崩壊しては、ソーシャルワークの実践は困難になり、地域の復旧・復興は望めないのではないかと考えています。
地域を生き物と考え、災害ソーシャルワークを考える。
地域コミュニティが復旧・復興の基本になるわけですね。
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山本
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私は普段、学生によくこう伝えます。「地域は生き物だ」と。
私たちの体に臓器や血管があるように、地域には病院や学校、スーパーがあり、道路は血管や神経のように張り巡らされています。災害は、そのネットワークが一気にダメージを受ける現象です。
そのとき、人間は細胞のような小さな存在ですが、細胞同士が助け合う力を持っていれば、全体として回復できます。しかし、その助け合いの力――すなわち地域の免疫力――が弱っている状態では、外からの衝撃に耐えることができません。
生き物である地域において、災害ソーシャルワークはどんな役割を担っているのでしょうか。
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山本
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わかりやすく言えば、災害ソーシャルワークは地域の健康管理の役割を担っています。
私たち人間が日頃から肥満や喫煙に注意し、病気を予防して健康を維持するように、地域も同じです。現場の課題を分析し、問題が深刻化する前に予防策を講じる。そして、いざ災害が起きてもダメージを最小限に抑える――そんなイメージです。
「最近、うちの地域、ちょっと疲れているね、風邪をひきやすいね」と感じたら、免疫力を高めるための対策を練ることが災害への予防につながります。災害時と平常時をつなぎ、災害時に起こり得る現実を理解することから、普段の地域のあり方や課題を見直し、その解決に向けて取り組む。これこそが災害ソーシャルワークの本質です。
最後に、今後の研究の展望についてお聞かせください。
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山本
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これまで、大きな災害が起きるたびに、「これからは高い堤防が必要だ」「避難所のトイレを増やすべきだ」といった個別の対策が示されてきました。しかし、これからの災害ソーシャルワーク研究には、もっと包括的な視点が求められます。
地域、福祉、災害を一体として捉え、課題を体系的に整理し、わかりやすく伝える仕組みを構築することが重要です。現状では、そのためのツールや方法論はまだ確立されておらず、現場での実践を積み重ねながら試行錯誤している段階です。
今後は、こうした実践知を科学的に検証し、モデル化することで、災害時に機能する地域福祉の仕組みを明確化していきたいと考えています。さらに、データに基づく分析や、地域の多様性を踏まえた柔軟な支援モデルの開発にも取り組み、災害ソーシャルワークの理論と実践を架橋する研究を深めていきたいと思います。
北陸学院大学 被災地支援センターのチャレンジ
北陸学院大学は、「主を畏れることは知恵の初め」の精神を礎に、他者への共感と奉仕の心を育む教育を実践しています。能登地震をきっかけに被災地支援センターを設立し、学生が学びを地域貢献へとつなげる取り組みを進めています。

被災地に“寄り添う拠点”を大学の中につくる。
2024年元日に発生した能登半島地震。行政や自衛隊の動きが十分に整わず、支援の遅れが深刻化しました。発災から1か月間にボラセンに登録されたボランティアはわずか2,700人。阪神・淡路大震災の約62万人と比べると、その差は歴然であり、支援の体制がいかに脆弱であったかを示しています。
この現状を前に、北陸学院大学は「学生や教職員が地域とつながり、支援の輪を広げる仕組みを自らつくろう」と立ち上がりました。こうして生まれたのが「被災地支援センター」です。大学内の空き施設を宿泊拠点に改修し、日本ソーシャルワーク教育学校連盟(以下、ソ教連)からの支援を受け手配していただいた車両を活用して現場まで学生を送る体制を整えました。
さらに、キリスト教系大学やソ教連などのネットワークを通じて、全国から人と資金を集めました。学生たちは泥かきや物資運搬に加え、高齢者の話し相手にもなり、「孫のようで安心できる」と声をかけられることも。
若さや純粋さが被災地に信頼を生む――その姿に、大学が担うべき教育の原点を見ました。
この活動を通じて北陸学院大学は、「災害時こそ、教育機関が人と人を結ぶハブになれる」という使命を再確認しました。
「住み続ける権利」を守るしくみを、大学から地域へ。
被災地支援センターは、発災直後の支援を超え、全国の教育機関や地域団体をつなぐ中間支援組織としての役割を担いつつあります。
現在は、住宅再建や生業の再開など、被災者一人ひとりの「暮らしの再生」に寄り添う支援を進めています。
そこにあるのは、「どこで、誰と、どのように暮らすか」という住民の意思を尊重するという理念です。この理念を学生と共有しながら、災害ボランティアを超えた“地域のウェルビーイング支援”へと歩みを広げています。
一方で、大学としての課題も浮き彫りになっています。災害対応の知識や連携力を持つ人材の育成、そして継続的な資金・組織体制の整備です。
同センターの取り組みは、「平時から備え、非常時に動ける教育機関」という一つの可能性を示しています。災害がどこで、いつ起きるか分からない時代において、地域に根ざす大学が、人と人、組織と組織をつなぐ拠点となることは、高等教育機関にとっても重要な役割の一つといえるでしょう。
「支援が行き届かない人を放っておかない」30年前の阪神淡路大震災の際にも叫ばれたボランティア活動の原点を改めて思い起こし、学生と地域が共に支え合う社会の実現に向け、こうした実践は今も現場で積み重ねられています。
- 福祉経営学部 医療・福祉マネジメント学科
- くらし・安全