INTERVIEW

脚本

鹿目 由紀 さん

YUKI KANOME

― 主人公の「浅賀ふさ」に関して、どのような印象をお持ちですか。

 脚本のお話をいただいたとき、実は浅賀ふささんを全く存じ上げず、功績をお聞きしたところ、あまりに立派な方でいらしたので、はじめは遠い存在なのかなと思ったりしました。けれど、その歩みを知れば知るほど親しみやすいというか、隣にいるという感じがするというか。当時、男性中心の社会で苦労された話などは、私もこれまで男性が多い現場で仕事をすることが多かったので、親近感がわき、共感もおぼえました。そして、こんな昔から革新的な考えをお持ちの方がいらっしゃったというのに改めて驚かされました。自分もその時代に生きていたかったな、 直接お会いしてみたかったな、と思いました。

― 脚本化するうえで、意識されたことはありますか?

 事実を重ねていくことがまず重要だと思いつつも、事実の中から見える「浅賀ふさ」への想像力を働かせました。何となく彼女がやってきたことの行間みたいなところに、こういうことで悩んだのかなとか、こういうことをすごく必死にやりたかったんだな、そういうことを描きたいと思いました。どう紡いだら、ふささんの人物像に対してもっと深みが増していくのかを考えて、若い頃のふささんと、お年を重ねたふささんが会話をする場面を想像しました。それが大事な気がしました。年を取っても変わらない信念、年を経たからこそ達観できたことを互いが語り合える、そういう場面があるとふささんの内面がさらに感じられるんじゃないかなと思いました。また、強いふささんですが、どこかにナイーブなところもあるようにと思えて、その部分も表現しようと心がけました。一見「スーパーウーマン」のようなふささんですが、お話しされている姿を映像で拝見したときに、「こんな柔らかいの?」と思いまして。あれだけ柔らかいということは、「痛み」を知っている人かなと。ひとつひとつ、人の痛みを受け止めているというところがポイントなんだなと、なんとなくわかった気がしました。事実の裏に見える、ふささんの「やわらかいところ」を大事にしました。

― タイトルの「さいしょの一歩」に込められた思いについてお聞かせてください。

 最初、ディレクターの菅野さんから「最初の一歩」というタイトルをご提案いただきまして、とても良いタイトルだなと感じ、心に馴染みました。最初の一歩を踏み出すのってやっぱり難しいことですよね。でも、ふささんは必ず、躊躇なく踏み出している。だから、ふささんにとっては、ずっとずっと、いつもいつも初めの一歩なのかな?という感じを受けました。はじめのうちは漢字の「最初」にしていたんですけど、ひらがなのほうがしっくりする感じがあって、「さいしょの一歩」になりました。ドラマでは、80歳になってもさらにこれから、という場面があります。わたしは、浅賀ふさという方は亡くなってからも「なにかやるぞ!」と漂っている人のように感じられます。ですから、じつは今も空の上で、一歩踏み出しているんじゃないかなと思っています。そんなことを考えていたら、貝殻の中の「螺旋」がイメージに出てきましたので、そこも今回のドラマのポイントになっています。

― このドラマは日本における社会福祉の黎明期のストーリーですが、「これからの福祉」に期待することなどありましたらお聞かせください。

 「人」を誰でも認め、よく知ったうえで、どうやったらその人たちとエンジョイできるか、そのようなことを勘得ます。例えば演劇でも、聴覚障害や視覚障害のある方など、いろんな人に見てもらいたいという気持ちもあり、これまで少しずつチャレンジをしてきました。誰もがあらゆる角度から芸術に触れられる、優しい社会ができるといいなと、ずっと思っています。

― 最後にこのラジオドラマを通じて リスナーの皆さんにお伝えしたいことやメッセージがありましたらお願いします。

 私はふささんと出会えてすごくよかったので、ぜひ皆さんにもふささんに「出会って」いただきたいです。そして、ふささんの生涯を知るることで、「もうちょっと頑張ろう!」とか、「しぶとく、諦めずにやり続けてもいいんだ!」とか、そんな元気をもらっていただけたらいいなと思いますので、ぜひ楽しんでお聴きください。

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鹿目 由紀

1976年、福島県会津若松市生まれ。劇団あおきりみかん主宰、劇作家、演出家。
南山大学文学部卒。名古屋市在住。
2008年、日本劇作家協会東海支部プロデュースの短編芝居コンクール「劇王」で4年連続優勝。『劇帝』の称号を得る。他、第16回劇作家協会新人戯曲賞、若手演出家コンクール優秀賞、第26 回名古屋市芸術創造賞、平成22年度愛知県文化選奨・文化新人賞、第18回松原英治・若尾正也記念演劇賞などを受賞。
「おそ松さん on STAGE ~SIX MEN'S SHOW TIME~」シリーズ、中村雅俊45thアニバーサリー公演 「勝小吉伝 〜ああ わが人生最良の今日〜」など外部脚本も手掛ける。また、テレビドラマ、ラジオドラマ脚本執筆など幅広く活動。2018年、平成29年度・文化庁新進芸術家海外研修(短期)でイギリス・ロンドンにて研修。
日本劇作家協会理事(2022年度〜)。日本演出者協会会員。