INTERVIEW

プロデューサー&ディレクター(CBCラジオ)

菅野 光太郎 さん

KOTARO KANNO

― 主人公の「浅賀ふさ」に関して、どのような印象をお持ちですか。

 浅賀さんのことは、今回、初めて知りました。この地域に日本の福祉の礎を築いた人がいらしたということと、一般的に浅賀さんを知っている方はほとんどなく、知られないままでいることにも、驚きを感じました。
 あともう一つは、浅賀さんの視点の多様さにも、大変惹かれました。例えば、女性が家族に尽くすことが当たり前のように考えられていた時代に、当時の社会の考え方自体に違和感を持つ目があったりとか。そして、その違和感をそのままにせず、世の中を変えようと自ら行動に移されるという、その行動力にもびっくりしました。
 これまでラジオドキュメンタリーの制作を数多く行ってきました。自分の中でテーマにしていることは、地域で頑張っている人を通して社会問題を描いたり、皆さんに問題提起をしていくということです。実際に取材すると、そういった人たちはスーパーマンというか、地域の人たちのために精力的に働いているすごい人たちばかりで、自分たちとしてはそういった人たちを取材することで、少しでもこの人の頑張りを世の中に知ってもらい、光を当てるようなお手伝いができればなと思っていました。
 そういう意味で浅賀さんは、これまでの自分の制作テーマそのものに該当する存在で、すごく興味を持ちました。

― ラジオドラマとして制作をするうえで、何か意識されたことはありますか。

 実際に浅賀さんは、ジェンダー問題とか 児童福祉とか医療福祉など、今でも課題になっていたり、ようやく解決に向かおうとしている社会問題に取り組んでいらっしゃいました。
 だから、浅賀さんの一生のどこを切り取っても、何か私たちに考えさせるものが溢れていると思いました。本当に長編でドラマが製作できる位の人生だと思います。そういった意味では、鈴木修学先生のことも、お話を伺って同様に感じました。
 ですので、即座に「少なくとも4話にしたほうがいい」と考え、脚本を担当していただいた鹿目さんに、無理を言って4話の作品を作っていただくかたちになりました。
 また、浅賀ふささんは世の中に違和感を感じた時に、「もっともっと生きやすい世の中にしたい」と思って、誰よりも先に一歩踏み出していろいろアクションを起こしてしていったーその勇気や、考え方や行動力を伝えることで、リスナーにも色々考えてもらいたいなとか、一歩を踏み出す勇気をもらってもらいたいなと思いながら制作にあたりました。

― このドラマは日本における社会福祉の黎明期のストーリーですが、「これからの福祉」に期待することなどありましたらお聞かせください。

 今回も含め、ドキュメンタリー番組の制作などで福祉に関わって共通して思うのは、課題を抱える当事者に寄り添って、当事者の視点で社会を見ることが必要だということです。浅賀さんが昭和初期の時代に、それをされていたというのは、本当にすごいことだなと思います。その姿勢の大切さというのものを、もっと皆さんに知ってほしいなと思います。社会システムづくりでも上からの投げかけじゃなくて、実際に生活している人たちの目で、ものづくりやシステムづくりをしてもらえると、皆さんがもっと生きやすくなるだろうなと思います。そのためには、自分たちが当事者意識を持って、それぞれの課題を考えることが必要ではないかと思います。

― 今回のラジオドラマを通してリスナーの皆さんに伝えたいことやメッセージなどがありましたらお聞かせください。

 このラジオドラマを聴いていただいて、印象に残った部分や引っかかったところなど、自分なりに考えてもらえたら嬉しいなと思います。できればそれを、皆さんご自身の言葉にして家族や友達に話をしてもらえると、なお嬉しいなと。そこから、福祉ということに関してどうなんだろうとか、今の社会問題に関して自分たちはどうあるべきだろうとか、どう考えるべきだろうとか、話が広がるきっかけになれば、本当に幸せだなと思います。

PLOFILE

菅野 光太郎

株式会社CBCラジオ 制作部専任部長
1994年 株式会社CBCヴィジョン(現:株式会社CBCラジオ)に入社、ラジオ制作を担当。現在、ワイド番組「北野誠のズバリ」「北野誠のズバリサタデー」のプロデューサー兼ディレクターなど、多数の番組を担当。
同時に、ラジオドキュメンタリー、ラジオドラマを制作し、ラジオドキュメンタリー「看取りのカタチ」日本民間放送連盟賞ラジオ教養部門最優秀、第68回文化庁芸術祭ラジオ部門優秀、「最期への覚悟」第55回ギャラクシー賞ラジオ部門大賞など、多数受賞。