研究報告

Wheelie動作による車椅子使用者のバランス保持能力の検討(中間報告)
研究代表者:岡川 暁
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  遂行課題は、開眼および閉眼で30秒間wheelieを行うことであった.男子健常大学生は、すべて日常生活で車椅子を使用しておらず、自力で前輪を持ち上げることができなかったため、検者が補助し、計測開始まで前輪を持ち上げた状態で保持した.1名のエリート車椅子競技者は自力でwheelie動作を行うことができたので、特別に補助はしなかった.開眼および閉眼で各5試行ずつ行わせ、30秒間前輪を持ち上げ続けられなかった場合は、前輪が接地した時点で終了とした.

図1

図1Wheelie動作の撮影 (矢状面)

 

【終わりに】

  本件申請者らは、これまで、 継続的に車椅子マラソンを行っている脊髄損傷者の筋力、筋パワー、および車椅子駆動フォームの関係を検討し、(1)競技成績の良い者の駆動フォームは、手部の動きが、駆動期と回復期ともに円運動に近い連続動作であること、および、(2)駆動直前の肩関筋の大きな伸展と、駆動中の体幹の下方への動きが特徴的であること、に基づき、車椅子の走速度の向上には、駆動期および回復期における上肢・体幹のリズミカルな動作が重要な因子であること(小林と岡川、1992)を示してきている.また、車椅子使用時の使用者の動的特性を、胸椎に障害を有するエリート車椅子マラソン競技者1名(1996年米国アトランタパラリンピック大会日本代表選手)を被検者として検討し、本被検者では、主として上肢の前後動(屈曲および伸展)により車椅子を駆動しており、駆動時に発生する加速度は、手首の方が肘よりもはるかに大きいことを示した(岡川、1995).

 

  Wheelie動作は、車椅子使用者となった脊髄損傷者が社会復帰の過程で修得する必要がある動作でもある.Wheelie動作が修得できれば、数センチ程度の段差であれば自力で乗り越えることができるようになり、車椅子使用者自身が自らバリアを克服できることに繋がり、極めて有益な技術であると思われる.

  次年度は、車椅子バスケットボールや車椅子マラソンの大会に積極的に参加している脊髄損傷者を被検者とし、5名程度まで被検者数を増やして測定を行う予定である.画像解析では、上体の動揺、肘関節の屈曲・伸展に関する角度変化、および手関節の橈屈・尺屈に関する角度変化を、主として矢状面において分析し、バランスを保持している際の各関節の角度変化、角速度、角加速度等の検討を継続する.Wheelie動作中でバランスを保持している際の腹直筋、上腕二頭筋、上腕三頭筋、橈側手根屈筋、尺側手根伸筋の活動状況を、各筋より導出した筋電図を用いて検討する.また、腹筋力、背筋力、肘関節屈曲力および伸展力、手掌屈および手背屈の静的筋力を計測し、測定された各筋力と関節角度の変化量、他のパラメーターとの間の相関関係、および上体の動揺を減少させることに貢献するパラメーターの有無を検討したい.

  本研究は、wheelie動作に関する極めて基礎的な研究であるが、今後、wheelie動作を修得する方法論やトレーニング法を考案する上で役立つ知見につながると考えている.

 

【Reference】

 ・ 小林培男、岡川暁、車椅子疾走フォームと駆動技術および体力の検討、日本バイオメカニクス学会第11回大会論集、北川薫編、杏林書院、東京:499-503、1992

 ・ 岡川暁、車椅子駆動時の上肢伸展動作に関する研究、日本福祉大学研究紀要93(2):75-84、1995

 

 

 

 

 

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