2.2 アナログ通信を用いたシステム
 FM波にアナログのトーン信号を乗せて発信することで安否確認を行うシステムを特定小電力無線機を用いて構築した.送信機は安否情報発信制御回路を組み合わせ,受信機は送信機から送信された発振音をコンピュータで解析することによって安否確認できる.
 送信機は「無事」と記された緑のボタンと「要救助」と記された赤のボタンのうち,どちらかを押すと情報が発信できる仕組みになっている.緑ボタンを押すと「私は(家族は)無事である」という情報を電波によって発信できる.
 情報を発信する「無事」,「要救助」のボタンにはそれぞれ異なるトーンが割り当てられて,どちらかのボタンを押すと,それに対応したトーンを発生し,トランシーバが「ピー」という発振音を電波によって送信する.受信側ではパソコンが信号のトーンの違いによって,個人の安否を確認する.
 1997年8月に構築したシステムの実地実験を行った.基地局から30-50mの距離で基地局との間に障害物がないポイント5点.基地局から30-50mの距離で基地局との間に障害物があるポイント5点.基地局から100-200mの距離のポイント5点の全てから正確に情報を受信できた.
 実験に参加した人を対象として操作性と有用性について聞き取り調査を行った.その結果,機械に弱い人でも送信操作は容易であるとの結果が得られた.聞き取り対象者のうち,兵庫県南部地震で家の下敷きとなる被害を受けた人からは,「家の下敷きになっている場合でも玄関口に送信機を設置すれば近所の人が送信機の操作をする可能性が高い」との意見が聞かれた.受信システムの操作については「Microsoft社の表計算ソフトExcelの操作に慣れている人でないと難しい,逆にExcelに慣れている人なら操作が可能」という意見が聞かれた.
 上記のシステムは地域の世帯数と同数の周波数バンドを用意しなければならない.このことは,実用上,大きな障害となる.

2.3 デジタル通信を用いたシステム
 1つの周波数バンドで安否情報の送受信が可能なように,デジタル通信を用いたシステムへ改良を行った.送信機は安否情報発信制御回路で,送信機の位置情報,安否情報をデジタル化する.1回の送信時間はヘッダの送信にかかる時間0.7秒程度を含めおよそ1秒である.一定時間に1度,ランダムな時刻に安否情報を発信するアルゴリズムにより,1つの周波数バンドで複数の送信機の設置を可能にした.送信機の設置可能台数についてはシミュレーションにより検討を行った[7],[8].
 FM波の場合,送信機からの信号が重なった場合は強い信号を受信することができる.シミュレーションでは,以下の(a),(b)の2つのパターンで送信可能台数を求めた.

(a) 信号が重なった場合に全ての信号が受信できないとする
(b) 信号が重なった場合に強い信号は受信できるとして,意図的に受信機の位置で信号に強弱ができるように送信機の信号を調整する

 


 10,000回のシミュレーションを行った時の平均受信成功率が99%以上で有効とした場合,受信時間を1時間として(a)で190台,(b)で220台の送信機の設置が可能であることがわかった.

3.安否確認システムの構築
 本システムは親機と子機からなるクライアントサーバ式で構成した.2.2のシステムよりさらに多くの子機との通信を可能にするため,親機主導型の出席方式で安否情報を収集する.災害発生後,子機は「無事」,「要救助」,「無操作」のいずれかの状態になる.図3のように,親機は各子機に順番に安否確認パケットを送信し,子機は親機の呼びかけに応じて安否情報を返す.
 1台の子機との送受信にかかる時間は約2秒であるので,1時間の受信時間で1,800台の子機の情報を収集できる.都市域では人口密度が高く,東京都杉並区高円寺のように25,000人/km2を越える地域もある.本システムでは親機1台がカバーする範囲を半径200mと想定しているが,25,000人/km2の地域では3,140人が居住していることになり,1世帯当たり1.57人で計算すると2,000世帯となり,本システムは住宅密集地域においても1時間強の受信時間で安否情報の収集が可能であることがわかる.なお,1世帯当たりの人数は,東京都杉並区平成17年3月1日現在の「町丁別世帯数及び人口」より高円寺北,高円寺南の人口と世帯数より算出した.
 これまでに制作したシステムはWindows95,Microsoft社のExcelで動作するものであり,信号の入力にはプリンタの端子を使用するなど,機種やOSへの依存が大きかった.現在販売されているノート型PCにはプリンタ端子はなく,シリアル端子もほとんど付いていない.今回のシステムでは,この点についても改良を行い,親機とPCとの接続はRJ45のEther端子を用いた.

 本システムの通信アルゴリズムを以下に示す.

Step 1 子機n = 1とする.また,子機数Nを設定する.
Step 2 親機は子機nに安否確認パケットを送信する.
Step 3 子機nは親機に安否情報を送信する.
Step 4 n ≠ Nの場合は,n = n + 1としてStep2に戻る.n=Nの場合はStep1に戻る.

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