4)最大筋力の測定
 被験筋の最大筋力をフォーストランスデューサー(Transducer U3BI-100k-B:Shinko社製)を用いて測定した.その際,最大筋力が発揮できるよう,姿勢と関節角度に配慮した.筋力測定時の筋電図を記録・保存し,前述と同様にiEMG/secを算出した.
5)統計
 上半身の引き上げ動作における体幹−大腿角度ならびに膝関節角度について,動作の前半時点と後半時点の差をstudent t-testによって検定した.また,心拍数における危険率は5%未満とした.

【結果および考察】
1)筋放電量

各測定部位の筋放電量(iEMG/sec)を図2に示した.全体的に見ると,上肢の筋放電量が多く,特に上腕二頭筋が体位変換動作において重要な役割を果たしていることがわかる.また,体幹の腹直筋と脊柱起立筋は,放電量としては少なく,被験者間での変動も少ない.下肢の外側広筋と前脛骨筋は5回目の動作以降,増加する傾向にあった.これらの変化を10回目の動作を基準として相対的にみてみると,図3のようになる.前半は,上肢の筋肉が中心となり,後半は下肢の筋肉が中心となり,動作が行われている傾向がみられる.また,腹直筋は偏差が大きいものの,脊柱起立筋と同様,前半に筋放電量が多くなる傾向にある.

 

最大筋力を測定した3名の被験者については,その時のiEMG/secを基準とした相対的評価を試みた(図4).筋力発揮の方向や関節角度の違いから最大筋力測定時と体位変換動作時が,必ずしも同じ力発揮にならないため,100%を越える値が得られた部位もみられたが,全体的には80%以下の放電量が多い.個人による違いがあるが,外側広筋や前脛骨筋は40%以下であり,余裕を残して活動していることが明らかである.また,腹筋は,全体の中で上位に位置する傾向にあり,特に,被験者MDにおいては,回ごとに顕著に漸増する傾向にあった.被験者TTと被験者MDは,ラグビーの現役選手であり,運動習慣のない被験者KTと比較すると,上腕二頭筋,橈側手根屈筋,脊柱起立筋,外側広筋および前脛骨筋の各筋肉で相対的に筋放電量が低く抑えられている(対 max比).また,運動習慣のないKTは,3回目を過ぎたころから,上腕二頭筋と橈側手根屈筋の筋放電量が漸増する傾向を示し,上肢の筋肉が疲労状態にあることが推察される.同被験者における三角筋の最大筋力は再測定するする予定であるが,おそらく同様な傾向が見られるものと思われる.これらの図4の結果から,日頃からトレーニングを行って,筋力ならびに筋持久力を強化しておくことが,本研究で用いたような介護動作を連続して行う際には有効であることが示唆された.

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