― 通信・放送機構受託研究 ―
分散データベースと統計的シミュレーションによる
VR プラットフォームに関する研究

研究代表者:伊藤庸一郎 (情報社会システム研究所 主任研究員)
共同研究者:池田 晶一 (情報社会科学部講師)

1. 背景と目的
 1970 年代, コンピュータエンジニアリングは産業活用に対する存在目的として, 道具の機械化による生産能力向上への活用を期待した. すなわち製造工程の自動化である. この時代, 生産工程は, 単純に道具の発展による効率化と言え, 手工芸的手法の延長線上であった. その為自動化への期待は様々な研究開発を産み, 次の時代の FA/OA (Factory Automation / Office Automation) を課題目的に集約し発展していった. 汎用コンピュータと SE (Syetem Engineer) が一般化した時代である.
 初期の SE 達は自動化対象の選択を, モデル化が比較的簡単な工程を対象とし. 作業単位の小さなアプリケーションをプログラム化していった. その後これをつなげる事をシステム化とし, 対象業務を単純化する為に従来の手工芸的手法からコンピュータに則した方法に変移した. しかし, 2000 年代情報処理能力や生産スピードの向上が重要な意味を持たなくなった業種も多くなっており, FA/OA の機械化・自動化の可能な置換工程もやりつくした感がある.
 1998 年頃から, BPR (Business Process Reengineering) 「企業を根本から変える業務革新」 として, コスト, 品質, サービス, スピードのような重大で現代的なパフォーマンス基準を劇的に改善するために, ビジネス・プロセスを根本的に考えなおし, 抜本的な再設計が盛んに提唱された. しかしそのコンセプトは業務担当者や現場の生産性向上をベースとしており, 受注から納品迄のスピードを高めるという外部指向にたっているアウトソーシングが主体となってしまった. また情報技術 (IT) は, 企業体質や構造などを抜本的に変革し, 新たな競争力を構築するものとされ, IT ブームを呼ぶが, BPR を省人化の手法として考えた経営者も少なくない. しかし IT には人間が必要という点を再認識することになる. 第二次産業主体の日本では生産の効率化を図ると最終的にはデザインや設計工程の, 抜本的なコスト軽減が困難であると言うジレンマがある. これは最近のデジタル機器の性能向上による低コストがデジタルモックアップや材料シミュレーション技術を現実の活用レベルに引き上げ, これに伴う商品開発サイクルが早くなる為, 市場に対して多品種の競合製品を生み出さなければならなくなる. 購買バランスを保つ為に低価格化が進んでしまい, デザインフィ−のバランスも悪化する. もちろんこれはデフレ原因要素となっている.

 2001 年辺りから, 経済産業省は製造業に 「デジタルマイスター」 を提唱している. IT 化が困難な職能的な分野のデジタル化を推進し, デザイン及び設計業務におけるプロトタイピングの人的コスト軽減手段として活用出来る技術を研究開発しようという動きである.



またこれに伴うアウトソーシングは国内の雇用を創出し, 技能の空洞化対策を図るというもの. 「デジタルマイスター」 には2つの考え方がある. 一つは, 業界によっても違いがあるが, 建設業界 の FM 法 (過去の設計を流用する為のデータベース等の整備) や, 自動車業界の, 販売セグメント別共通プラットフォームの徹底といったコンポーネントを確立させる為のシステム構築で新たな開発を物理的に減らす方法. そしてもう一つは, 設計者の設計工法や知識・思考のシステム化により対象業務の完全な自動化を図る方法. これが技能の空洞化対策になるか疑問であるが, 企業にとって, 基盤技術の整理と個人的な職能を資産化する事は有益である.
 これには, 何らかの人工的な思考過程をサポートする技術が必要. 二人と同じ様に考える機械の実現はコンピュータが世に生まれた 1940 年代からの根本的な課題であり, AI (Artificial Intelligence) 技術はその一つの考え方である.
 2002 年現在, 「デジタルマイスター」 技術の決定版が存在するわけではないが海外 CAD メーカーのナレッジ CAD は, 当地方の自動車産業や家電メーカ−等に採用され, 設計支援としてデジタルマイスター的な活用をされ始める等,にわかに市場ニーズは発生してきている.
 しかし日本は 1980 年代, AI に対する過剰な期待とその成果に対する失意からか, 多くの研究者は研究から手を引いてしまった時期がある. 当時のブームはファッション的な課題となり, 研究者を巻き込んでいった. 結果 AI を否定する研究者も数多く, 1990 年後半以降, 中堅のソフトウェア業界においてその研究者数は激減し, AI 関連製品開発産業は低迷してしまった. またその素地となる大学等の教育の現場にも影響した. これを支える AI 関係のソフトウェアエンジニアはコンピュータ関連産業内で圧倒的に少ない存在である為各産業のデジタルマイスターを推進する上で可能なのであろうか.
 本研究は, 2000 年度の通信・放送機構 (TAO) で採択された産学連携支援・若手研究者支援型研究開発制度における 3 年間の研究で 2002 年 4 月で最終年を迎えようとしている. 本研究の目的は, デジタルマイスター技術として, 第二次産業全般を対象とした製品設計製造プロセスにおける職人の専門知・手法を人工化する為に最適なプラットフォームを確立し, デジタルマイスターの基盤技術研究が目的である.
 また, 研究期間で産業全体を網羅する事などは不可能であり, 目的としている訳ではない. 期間内での研究は, 対象を限定した課題で実験開発し, 具体的な市場に対してシステム化を実現する.

 

NEXT