ホームヘルパー活動を支援するモバイル情報環境
後藤 順久 (経済学部助教授)

1. 事業の背景と目的
 福祉先進都市を目指す高浜市 (愛知県衣浦東部地域に位置し, 人口約 3 万 9 千人, 高齢化率は約 15 %) は, まちづくりの拠点として, 「高浜市いきいき広場」 を平成 8 年 4 月に全国に先駆けてオープンさせた. 同施設は質の高い住民 QOL の実現を目標に設置された公私運営方式による地域拠点である. 高浜市社会福祉協議会も市役所福祉部, 在宅介護支援センター, リハビリルーム, 福祉機器ショールーム, 福祉系専門学校とともに福祉・保健・生涯学習・福祉教育等の事業に取り組んでいる. この施設のオープンにあわせて, 地域福祉情報システムを構築し, 関連機関で福祉情報の共有化を図ってきた. この拠点で, 情報システムを利用しながら, 高浜市社会福祉協議会は各種の在宅福祉事業を実施してきた実績があり, 高浜市における福祉分野の発展の一翼を担っている. 特に, 平成 3 年度からホームヘルプサービスを高浜市より委託され, 平成 8 年度には愛知県下で初めて 24 時間巡回型ホームヘルプサービスを展開している. 平成 12 年度の活動実績は, 111 人の利用者に対し 14,086 時間のサービスを提供し, 在宅の要支援介護者, 要介護高齢者の生活全般にわたる援助を行っている. また, グループホームや宅老所も既に設置済みで, 全国的な福祉先進モデルとして注目されているところである.
 介護保険制度の導入により, ケアマネジメント手法による居宅介護支援計画の策定とそれに基づいてサービスされることが前提となり, ホームヘルプサービス以外の介護サービス事業者との連携や調整が不可欠な要素となった. より多くのケースに, ニーズによりマッチしたサービスを, より迅速に, より効果的に, かつ効率的に提供することが求められるようになったのである. さらに, 要介護高齢者は, ADL, 状況, ニーズがそれぞれ異なり, ケースバイケースで介護サービスの提供を望まれる. それに応えるには, 要介護高齢者ごとのケアプラン作成が重要であり, ホームヘルパーを中心としたケアスタッフが一体になった支援体制の整備が不可欠である. そこで社会福祉協議会内に既設されている福祉情報ネットワークによる情報共有・コミュニケーションに加えて, 現場で最適なケアサービスを展開していくため, 携帯パソコンではなく, 操作のやさしいモバイル情報端末を用いた在宅ケア支援環境の新規構築を目的とする.
 全国の福祉関連機関で情報機器による介護サービスの支援のための情報化が図られてきているが, それは介護報酬計算等の事務の効率化や, 行政機関や事業者間の情報共有が中心である. しかし, 質の高いサービスの効率的な提供を重視した場合, この機能だけでは不充分である. 24 時間対応など緊急性の高いサービスに対応できる情報入力環境の整備と, 利用者のサービス情報やニーズ情報を効率的に活用し, より質の高いサービスの開発に活用できることこそ意味があるのであると考える.



2. 事業の内容と方法
 高浜市社会福祉協議会における在宅介護サービスを効果的に実施するための課題を明らかにし, モバイル情報環境で解決するために以下の調査を行った.

  • ステーションにおける現況のシステムの制約条件
  • 在宅介護サービスの効率的運用上の課題
  • その他のシステム開発上の前提整理
  • モバイル情報環境導入による効果

 また, この関連分野の先進事例を文献, Web ページで分析し, 適用範囲, 機種, 導入効果などを取りまとめ, 当事業に参考となる事項の調査を行う. 事例として以下の 3 つを取り上げた.

  • モバイルパソコンを利用した白十字訪問看護ステーションの事例
  • iモードによる訪問看護を支援する 「ナーシングネット」
  • 認定調査を支援する Palm を活用したフリーソフトの事例

 社会福祉協議会における在宅介護サービスの課題を把握し, 効率的なサービス情報提供を可能とするモバイル情報環境の望ましいあり方について検討し, システム構築に向け計画立案を行い, さらに構築されたシステムの評価を行うことを目的として, 「在宅ケア支援モバイル情報環境構築検討委員会」 を設置した. 委員構成は委員長を高浜市社会福祉協議会事務局長に, その他に福祉領域専門家 5 名とシステムエンジニア1名にお願いした.
 モバイル端末の機種として, Palm 機, CE 機, Zaurus の比較検討を行った. 本事業のモバイル情報環境に最適な端末の機種を以下の基準で選定する.

  1. 端末の持ち運びが容易で, サーバー側のデータベースと容易に同期が取れること
  2. ユーザーインターフェースが優れ, 入力が容易であること
  3. ソフトウェアの開発が容易であること  

1 の特徴から Palm 機を選択し, 27 台を導入した.

 

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