情報通信機器による社会的ネットワーク形成過程の考察
陳  立行 (情報社会科学部教授)
小島 孝夫 (大学院 情報・経営開発研究科 研究生)


 2001 年度の研究所の共同研究 「情報通信機器による社会的ネットワーク形成過程の考察」 の中間報告を掲載します. 本研究は 2003 年度も継続します.


1 . はじめに
 情報通信技術(IT)の急速な普及に伴い, 人々の社会生活と社会活動の環境が大きく変化した. また, 携帯電話やインターネットなどの情報通信機器は, 人と人のつながりを円滑にする便利な手段となった.
 近年, インターネット上の出会い系サイトに起因する暴行, 殺人事件が報道されている. ネット上でのつきあいは, 従来の対面でのつきあいとは異なる形成プロセスを経ると推測される. また, そのような事件に発展してしまう原因もその中にあると考えられる.
 情報通信機器の利用が社会のルールや構造を変えつつある現在, 情報通信機器によるコミュニケーション行動がどのように行われ, 社会にどのような影響を与えているかの基礎研究が求められている.

  2 . 研究目的
 陳は研究論文 「中国の私的経営者の社会的ネットワーク」 をはじめとし, 社会ネットワーク論を提唱してきた. 社会的ネットワーク論とは, 社会学のアプローチの一つで社会を分析する方法である.
 従来はアンケート調査や聞き取り調査など, 回答者が自己申告で回答したもの, つまり 「行為をする主体の叙述」 に基づき分析するのが主流であった.
 同一事象に対する解釈が被験者および実験者により異なるため, 学問としての理論構築には, 客観性が高いデータや分析方法を用いていくことが文科系といえども求められている. しかし, 人のつきあいに関する客観性の高いデータ収集と分析方法がまだ確立されていないのが現状である. なぜならば, 人のつきあいは物の移動ほど誰もが疑わず, 誰もが目で見て 「確かにそうですね」 と合意できるものではないからである.

 したがって, 社会および人のつきあいに関する客観性の高いデータ収集と分析方法の開発が求められており, それらの開発が人のつきあいを体系化していく基礎となるだろう. データの収集と分析方法の開発および, 理論の構築が冒頭にも述べた諸問題の解決につながるはずである.
 本研究では, 次のような理論構築を目的としている.


  1. 社会的ネットワーク, つながり形成の契機.
  2. つながりを経由して伝達されている情報のフロー, およびその情報と既存の社会システムとの関連.
  3. 社会的ネットワークのつながりには静的な状態もあれば, 動的な状態もある. かつ潜在的なものもあれば, 顕在的なものもある. そのつながりを動かすダイナミクスがいったいどこから生まれたかを明らかにし, 社会的ネットワークの動きのメカニズムを把握する.
  4. 情報通信機器による形成されたつながりが現実社会にどのように展開するか. その展開にかかわる諸要素を解明する.

 3 . 研究の手法
 本研究は情報通信機器の中から, インターネット上に Web コミュニティと呼ばれる会員間電子掲示板・メールシステムを取りあげる. そこまでならば, 既存の BBS 等と同様であるが, さらに, 人のつきあいに関する客観性の高いデータ収集を行う機能を追加してある.
 また, 被験者のプライバシーに配慮し収集データと個人情報は切り離して分析ができるよう工夫してある. そのことがより客観性の高い分析を可能にする.
 この機能を生かし, 特定の範囲を対象にして詳細なデータに基づいて社会的ネットワーク形成のプロセスを把握する. 情報通信機器によって形成されたつながりが現実社会の人間関係にどのように展開するかを追跡しアンケートと聞き取り調査を行い, 社会的ネットワークの動きに関わる諸要素とメカニズムを明らかにする.
 先行研究として, 昨年度日本福祉大学の学生を対象にして試作システムのテストおよび実験方法の検討を行った. その結果から, 実験用システムの大幅な改良と, 実験方法の再検討, および十分な実験期間の確保が課題であることが分かっている.
 本研究では, 実験用システムの大幅な改良, 実験方法の再検討など実験開始までの準備を入念に行い, 9 ケ月以上の実験期間を設け, データ収集に努める. また, 追跡調査も行う予定である.

 

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