第二次世界大戦以前は国際交流の拠点として繁栄していたが、ベトナム戦争ならびに1975年の社会主義革命を経て、世界の経済成長の動きから大きく取り残されてきた。しかし、近年市場経済の導入により急速に変化を遂げようとしているが、他の発展途上国と同様に、国内格差の拡大が進み、首都ビエンチャンが近年大きく様変わりしたのに対して、焼畑に依存した山岳地帯では、水道や電気もなく、幼児死亡率が3割近い村も少なくない。

3.多民族のすみわけ

 ラオスは多民族国家である。民族学的には68民族に分類されているが、一般的には、高地ラオ族(ラオ・スン)、中地ラオ族(ラオ・テゥン)、低地ラオ族(ラオ・ルム)の3つに大別され、それぞれが独自の文化・言語を有し、伝統的には空間的なすみわけを行ってきた。現在一般にラオス語と呼ばれている言語は低地ラオ族の言葉を指す。また、英語で表記された音とラオス語の発音とは異なる。ラオス語も正しくはラオ語であり、都市名表記にも誤りが少なくない。
 表1および図2に、民族グループの伝統的なすみわけを模式的に示したが、近年政府は、中地・高地ラオ族を低地へ強力に移住させようとしており、その結果、このようなすみわけは、かなり崩れてきた。

民族
(総称)
ラオ・スン
(Lao Sung)
ラオ・テゥン
(Lao Theung)
ラオ・ルム
(Lao Lum)
居住地 ・ 高地
・ 800m以上のテラス
・伝統的には20年程度のサイクルの移動型
・ 中地
・ 400m〜800mの山腹
・定着型集落
・ 低地
・400m以下の河川沿平地
・ 定着型集落
耕作 移動型焼畑
(現在はローテーション型へと変化)
ローテーション型焼畑 水田稲作
主食 通常の米 もち米 もち米
家畜 馬,家禽 豚,山羊,家禽 水牛,牛,家禽
宗教 精霊信仰 精霊信仰 仏教
言語 モン語・ヤオ語他 カムー語他 ラオ語
その他 * ベトナム戦争時仏・米に徴用
* 革命時に多数が虐殺・国外脱出も
* ケシを栽培
* 戦乱を逃れてさまよった世帯も多い
* 焼畑依存で経済的に不安定
* 現在の社会主義政権の中心層をなす
* 相対的には裕福



4.持続可能な地域開発と環境資源管理のための課題

4-1 環境保全の面からみて
@ 焼畑ローテーション間隔の短縮化

 ラオスの焼畑は、伝統的には20年程度の間隔で営まれてきたとされているが、現在は多くの地域でわずか4年サイクルにまで短縮化されている。その原因としては、人口増加による空間的利用密度の上昇、それに拍車をかける低地への民族移住政策があげられる。さらには、熱帯林行動計画に従って政府が対外的に公約した焼畑面積の低減に向けて、土地・森林の配分プロジェクトによって焼畑地を制限したことも大きな要因である。4年サイクルの焼畑が持続可能でないことは土地条件からも明白であり、ここ数年のうちにこの政策は破綻する可能性が高い。
A 森林資源の劣化・減少がくらしを脅かす
 過去40年間に森林率は25%以上減少したと推測されている。過度の商業伐採が主たる要因であるが、ラオスのように乾期が長い(概ね10月から4月)地域では、林地の腐植層やA層が極めて薄く表土が流出しやすいため、焼畑による環境影響も大きい。さらに、焼畑を短サイクルで繰り返すことにより、妨害植生であるチガヤ類が繁茂し、森林の再生や焼畑・農業的土地利用を著しく困難にさせている。

写真2 ヤオ族のおじいさんと孫

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