ラオス焼畑地域における持続可能な環境資源管理をめざして

―その1―

研究代表者:千頭 聡 (情報社会科学部助教授)

1. はじめに

 アジアの発展途上国においては、 森林資源の質の劣化や森林面積の減少が大きな問題となっている地域が少なくない。
 もとより森林は、 地域の人々の命とくらしを支える生活基盤であり、 人々は森林から実に様々な恵みを享受している。 木々の芽や葉、 きのこをはじめとした特用林産物は食糧や薬草になり、 森林が維持されることで乾期にも小川が枯れることなく飲み水をもたらす。 家を建て屋根を葺くにも森林は不可欠である。 特に、 焼畑地域では、主食たる米の生産量は毎年の天候に著しく依存しており、 干ばつなどによって米の収量が減少した場合には、 食糧を周辺の森林に依存する割合が高まる。 つまり、 森林は、 気候変動に影響を受けやすい生活の安定機構 (外部の変動に対する緩衝機構) としても機能している。
 したがって、 森林の劣化は地域の人々の生活を急速に不安定にさせ、 くらしの最終的な安全保障機能すらも奪い去ることになる。
 筆者は、 現在も広く焼畑が営まれている、 インドシナ半島中央部のラオスを対象として、 1991 年以来、 様々な調査研究や小規模な支援活動などを行ってきた。 本稿では、 ラオスの置かれている状況を概説し、 発展途上地域における地域開発と環境
資源管理の課題について簡単に述べてみたい。


2. ラオスとは

 インドシナ半島中央部に位置するラオス (正式名称を直訳すると、 ラオ人民民主共和国) は、 タイ・ベトナム・カンボジア・中国・ミャンマーに囲まれた、 面積約 23.7 万, 人口約 500 万人強の内陸国である。 数百年におよぶ王国としての歴史と伝統を持ち、 はるか 200 年以上前から日本とも仏教を通じた交流があったとされている。



図 1 インドシナ半島とラオスの位置



写真1 メコン川とラオス (手前は東北タイ)

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