里山環境の変化が生物多様性に及ぼす影響 (中間報告)

研究代表者:福田 秀志 (情報社会科学部講師)

研究協力者:豊田 博・中村 宏 (情報社会科学部)

1. はじめに

 近年, 「里山」 という言葉をよく聞くようになった. 里山とは, 農業や農村の生活において利用される薪炭林など, 人為的な影響によって形成され, 管理される林を指し, いわば人間と自然が調和してきた環境といえる. しかし, 高度経済成長による, 産業構造の変化や燃料革命によって, 里山の価値は低く扱われるようになり, 開発によって破壊されたり, 管理放棄されたりして, 現在では荒廃している. 近年になって里山が注目を集めるようになった大きな理由は, 最近まで普通に見られた生物が, 絶滅の恐れのある生物種として, レッドデータブックに掲載されるなど, 激減していることが大きな理由である. つまり, 人間が見放した里山の環境が, 普通に見られた生物の生息場所になっていたことがわかってきたため, 里山の環境が重要視されるようになってきたのである. 農村の人々の生活からできた里山の環境は, 人間が利用しやすいよう, 手を入れてきたことで, 無意識のうちに, さまざまな生物の生息場所を提供してきたのである. しかし, 里山環境の変化が, そこに生息する生物相にどのよう

写真−1 
管理された雑木林


な影響を与えるのかについて,定量的に調査した研究は少ない.そこで,本研究では,知多半島にある里山の雑木林を対象として, 人間が手を入れて管理している雑木林と, 放置された雑木林の植生および環境の違いについて調査することとした. さらに, そこに生息する昆虫相の違いについても調査を行ってきた. 今回は, その中間報告を行う. なお, 本研究費の一部は, 日本福祉大学情報社会システム研究所研究費によった.

2. 調査地

 管理された雑木林として, 愛知県東浦町にある, 高根の森を調査地とした (写真−1). 高根の森は, 保安林として, さらにマツやコナラ林を残す目的で東浦町によって管理されている. そのため, 富栄養化を防ぐため落葉・落枝が数ヶ所にまとめられており (写真−2), 東浦町によって処分されている. 一方, 放置された雑木林として, 日本福祉大学半田キャンパス近くにある雑木林を調査地として設定した. 林縁にはツル性の植物が繁茂しており (写真−3), 林内にはマツの枯死木が多数認められた (写真―4).

写真−2 
落葉・落枝が集められている様子

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