社会システムナビゲータのプロトタイプ構築とその利用

研究代表者:後藤 順久 (経済学部教授)

1.調査研究の背景

 車のドライバーに道案内のカーナビゲーションがあるように, 制度・サービス体系が多様化している生活・福祉分野において, 出発地 (状況・ニーズ・ ADL) から目的地 (サービス選択・契約・供給) まで最も効率的な道筋を案内する 「福祉分野のナビゲーションシステム」 の開発が不可欠であるという発想からの提案である. 在宅ケアサービスが質・量ともに整備されれば, 要介護者にとって各種サービスを組み合わせて利用するケースと, そうでないケースとでは, その後の生活の質 (QOL) が格段に違ってくるといわれる. サービス情報の入手格差がそのまま QOL の格差につながる可能性がある. 公共・民間を含めた多種多様な在宅福祉支援サービスが, 「いつ」, 「どこで」, 「どのような内容で」 供給されるか, そして 「どんな障害を持った利用者まで」 可能なのか, 「個人負担はどれくらいなのか」, 「どんな手続きが必要か」 など一目で分かる充実した情報を要介護者やその家族の状況・ニーズに応じて提供でき, サービスの供給につながるような支援システムが望まれている.

2.調査研究の概要

 3 年計画の初年度では, 介護福祉の分野に絞り, 「介護情報ナビシステム」 に望まれる要件について検討した. サービス事業者 (数 10 カ所) のデータをヒアリング調査によって収集した. 要介護者やその家族の状況・ニーズに対応したサービスに関する提案ができるプロトタイプを構築し, リリースした(http://www.n-fukushi.ac.jp/wis/)
 本調査研究で構築するシステムの大きな特徴の 1 つに, それほど福祉に明るい人でなくとも専門用語を駆使した多様な福祉の世界から, 自身のニーズに対応した福祉サービス情報に辿り着くことがあげられる.


一般人が使用する漠然としたニーズや状況という言葉 (主訴) から, 厳格に定義された福祉サービスにマッチングされる必要があるが, その両者には大きなギャップが存在する. そのために, 福祉領域が非常に難しく思われる, あるいはサービスの利用までが大変であると思われる理由のひとつとなる. ここでは一般人が発する曖昧なニーズや状況をかなり合理的に福祉サービスへと結び付けられる仕組みの提案を行った. まず, 現状で, どの状況を持つ要介護者がどのサービスと結びついているか分析した. データは愛知県 T 市の介護保険要介護認定 85 項目データを, 許可を得て利用し, 痴呆の程度, 歩行の介助, 寝返りの可能性, 排便後の援助, 洗身の介助, 特別な医療的ケアの状況を持つ要援護者が過去 3 ヶ月間にどの福祉サービスを利用しているかを統計的に調べたものである. その結果を表 1 に示す.


表 1 
要介護者の状況と利用しているサービス

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