中小企業の発展に関わる社会システムに関する比較研究

研究代表者:陳  立行 (情報社会科学部教授)

共同研究者:岩田 龍子 (経済学部教授), 近藤  悟 (情報社会科学部教授)


 本研究は課題研究と連携して, マレーシアと中国を対象として中小企業の発展に関わる社会システムとそのメカニズムに関する比較研究を行い, 自立型経済発展モデルの可能性を探ることを目的とする. ここでいう自立型経済発展モデルとは外国の先進技術と経営のノウハウを吸収しながら, 中小企業あるいはベンチャー企業の振興をはじめ, 自国の産業と技術を育成し, 自らの力で経済発展を進めることを意味する. 具体的には以下の諸課題の調査分析に基づいて, 同じ民族の企業家の異なる社会での経営活動と同じ社会での異なる民族の企業家の経営活動の相違を明確にすることによって, 中小企業の発展に関わる社会システムとそのメカニズムについて比較研究を進める. 1. 産業構造における中小企業の位置付け 2. 政府の中小企業促進政策とその効果 3. 中小企業と多国籍企業との相互関連 4.  中小企業経営者が生まれた社会的文化的背景 5. 中小企業の経営現状と経営者の経営戦略意識 6. 一般民衆の起業に対する意識. 調査対象は中国の漢民族, ムスリム経営者とマレーシアの中国系, マレー系, インド系の経営者としている.
 今年度では, 夏休み中に本学の研究メンバーの 3 人が中国の合肥と北京に訪れ, 北京経済貿易大学の共同研究者と一緒に一ヶ所のインキュベーターと 7 社の企業に対して聞き取り調査を実施した. 3 月, 陳は来年度のアンケート調査の事前準備と中国で起業しているムスリム企業家に対する聞き取り調査を行った. この中間報告は主に 8 月の現地調査の結果に基づいてまとめられたものである.



1. 政府の中小企業の育成

 各地の地方政府 (市レベル) は中小企業の育成のため, 政策, 法律などの整備以外, インキュベーターの設立を通じて環境整備を図っていることが調査から見て取れた. 合肥市のインキュベーターのような施設は全国に数多く設立されているようである.
 合肥市のインキュベーターの名称は 「中小企業創業センター」 となっている. 主なねらいは科学技術の研究成果を応用し, 製品化をし, 商品化するベンチャー企業を育成することである. 合肥は二線(※1)にされ, 改革・開放後 38 の国の研究所は三線から合肥に戻った. 合肥は有名な中国科学技術大学をはじめ多くの大学もあり, 科学技術者が多い都市である. 研究者の間には, 企業化の意欲が出てきているが, その実現にはさまざまの困難が伴っており, 難しいため, 大学の研究成果と企業活動とを結び付けることを目的にこの施設が設立された.
 90 年代に始めこの施設は, 企業経営のノウハウの提供と創業期の最大限のコスト節約を図り, 企業化をサポートしてきた. 具体的には工場用地と建物, 会議室の提供, 企業設立の登録手続などのサポート, ベンチャー投資から必要な資金提供の斡旋, 企業経営や会計処理, 市場開発などの講座と研修, 生産と販売に関わる CONSULT を提供している. また家族に合肥市の戸籍の提供と住宅, 子供の学校の斡旋も行っている.
 企業は創業時には, このセンターで施設やノウハウの提供を受け, 成功した場合には, 一本立ちし外に出てゆく. その方針としては, 3 年以内に企業化に成功すれば自立させ, 成功しないときには廃業させる.
 これまで, 成功してセンターを離れ, 別のところで工場を建てた企業は 5, 6 社ある.



(※1)  1949 年から改革開放まで, 中国では東西冷戦に対応し, 戦争に備え, 国土が沿海地域の一線, 中部地域のニ線と内陸山間部の三線に分けられていた. 国の重点工業プロジェクトの多くが三線に立地された.

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