―中国清華大学との共同研究―
中国における情報通信サ−ビスに関する調査研究
−北京市民の生活の情報化の実態調査より−

研究代表者:近藤 悟 (情報社会科学部教授)

1. 調査研究の背景と目的

 今日, 経済発展の牽引力として, そしてより豊かな生活の実現に向けた牽引力として, 世界の多くの国において情報通信分野の技術革新すなわち“IT 革命”に対する期待が高くなっている. この世界的な情報化 (IT 化) の動きについて注目すべき一つの点は, 情報化を国家的な戦略として進めている国が, アメリカをはじめ日本やヨ−ロッパ諸国のように工業化が進んだ先進国だけではなく, 発展途上国の中にもみられるという点である. この発展途上国での国家情報化の動きがみられる地域として特にアジア地域が挙げられる. 韓国などのアジアニーズはもちろん, 中国, フィリピン, ベトナム, タイ, マレーシアなどにおいても, 経済発展と国民生活の向上のためには国家情報化は不可欠であるという認識のもとに政府が中心となって情報化プログラムを策定して情報化を推進している.
 このように工業化が進んだ先進国だけではなく, 発展途上国においても情報化が国家的な戦略になっているという動きは, IT 革命に関わる国際比較という枠組みにおいて互いに関連するいくつかの研究課題を提起している. 情報化を国家的な戦略として進めている発展途上国では, 情報化がどのような背景のもとでどのように展開されており, 今後どのように進展していくと予想されるのか. そして, これまでの発展の軌跡や社会的文化的背景などの違いから先進国と発展途上国での情報化の進展の道筋とその産業経済面や国民生活面へのインパクトにはどのような違いがありうるのか. さらには, 技術革新を背景とした工業化から情報化という技術文明の発展シナリオとは異なる新たな発展シナリオの可能性はありうるのか .



 本調査研究は, 上述した関心課題の研究の基礎的先行的研究として, IT 革命を国家的な戦略と位置付け, 経済と社会サ−ビスの情報化を積極的に推進してきている中国を対象に, 実際に情報化がどのように進展しつつあるのかの実態をまず把握することを目的として実施した. 特に本調査研究では, まだ十分には把握されていない中国の国民生活の情報化の実態を実証的に把握することの学術的な意義も含め, 国民生活の情報化の実態把握に焦点を当て, 北京市区での市民生活の情報化についての現地調査を通じて国民生活の情報化の視点から中国における情報化の進展動向の一端を実証的に明らかにすることを試みた.
 なお, 本調査研究は, 北京の清華大学と本学情報社会システム研究所との共同研究プロジェクトとして企画・実施したものであり, 清華大学経済管理学院劉麗文教授, (株) 情報文化総合研究所佐藤佳弘所長, 本学大学院情報・経営開発研究科由波氏 (大学院生) の研究協力のもとに行った.

2. 調査研究の項目と方法

 本調査研究では, 上述した関心に基づき, 北京市区において次の二つの現地調査を行った.

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