中山隼雄科学技術文化財団 1996 年度委託調査研究

「高齢者がゲーム機器遊びを学習する時の適応性の研究:

運動・行動・脳の可塑的変化の解析」 報告 (要旨)

研究代表者:鵜飼 一彦 (情報社会科学部教授)

共同研究者:磯貝芳徳 (情報社会科学部教授),

      唐沢かおり (情報社会科学部助教授), 久世淳子 (情報社会科学部助教授),

      鈴木 三央 (ボバース記念病院リハビリテーション部作業療法科)

研 究 指 導:久保田 競 (情報社会科学部教授)

 高齢者が TV ゲーム機器を楽しむための条件を見出し, ゲームを楽しむことをより容易にするための方策を探るためのいくつかの試みを行った. 様々な高齢者においてゲームを継続するため運動・行動・脳機能に対する効用を評価した. また, その評価法の確立を試みた.  今回の研究は, プロジェクト全体を予備調査と 3 つの課題にわけて行った. 予備調査では, ゲーム機の選択と市販のゲームの調査及び選択を行った. 次に, ゲーム高齢者適合評価として, 種々のゲームに対する高齢者の印象を調査した. 同時に若年者の印象と若年者が 「高齢者がゲームをした場合にこのゲームをどう思うか」 について調査した. 次に高齢者におけるゲームの効果を評価するために半年間にわたって高齢者がゲームを行った場合, 心身にどのような効果 (変化) があらわれるかを調査した. さらにボバース記念病院では, 障害者のリハビリにおけるゲームの有用性を評価した.  予備調査の結果, 多数のゲームが市販されているが, 特に高齢者向けというように対象を絞ったゲームはほとんど市販されていないことが判明した. 従来, このゲーム機の主対象が男子中高生であり, ゲームの大部分はこの層を対象と考えている. しかし, 女子を対象としていると思われるゲームが現れはじめており, この傾向が今後継続するかどうか, 継続するとすればさらにそれが男子中高生以外の特定の層, 例えば, 幼児, 小学生, 社会人, 主婦, 高齢者など, を対象とするゲームにまで拡大するかどうか注目される.  若年者と高齢者に様々なゲームを行ってもらい, その印象をアンケート調査した. 様々な解析により, 若年者がイメージとして持っている高齢者と実際の高齢者には差が見られた. 一部は若年者・高齢者で同様な反応が得られるにもかかわらず, 若年者のイメージでは自分たちと異なっていると高齢者を見なす場合と, 若年者が自分たちとの差を量的な基準でとらえようとしているにもかかわらず実際には大きな質的変化が見られるケースがあった. このほか, 生理的機能変化ともかかわると思われるが, 音と絵の好みに関して若年者と高齢者では, はっきりとした差が認められた. 高齢者は音がうるさいぐらいの方がゲームが楽しいが, 絵がちらつくと楽しくなくなるのに対し, 若年者は逆の反応を示している.若年者の高齢者イメージでは, ゲームの速さについていけるかどうかはゲームの難しさに大きな意味を持つのに対し, 実際の高齢者では, その項目間に関係はない. 若年者の高齢者イメージでは, ゲームの目的がわからないことはゲームが楽しくないことに影響しているが, 実際の高齢者では逆になっている. ゲームの目的がわからない方が楽しいという結果は, 難しいと思うゲームをもっと続けたいと思うこととも関係する. これらの点において, 若年者は高齢者の精神活動の内面を, 外見の 「速さ」 に対する否定的な観察からそのまま推察してしまって, 見誤っている可能性が強い.


NEXT