研究報告

気象と発症の因果関係分析に基づく疾病予防型環境制御空調の研究開発
研究代表者:佐藤 省三   1/1

気象と発症の因果関係分析に基づく疾病予防型環境制御空調の研究開発
(概要)(中間報告)

Investigation of Meteorotropic Disease Preventability
by an Air Conditioner Based on Relationship between Weather and Disease

研究代表者:佐藤 省三 (情報社会システム研究所講師)
  共同研究者:伊藤 庸一郎 (情報社会システム研究所講師),
須藤 千春 (中部大学応用生物学部), 三洋電機株式会社

研究期間 2005 年度〜2006 年度

 超高齢社会へ向い高齢者医療を含めた医療費の増加に伴う医療費財政の逼迫も深刻であり, 発症後の対処療法から発症を未然に防ぐための予防医学への要求が高まってきている. この中で気象予防医学は, 健常者の健康維持のみならず, ぜんそく・リウマチなどの慢性疾患者の QOL 向上や, 異常気象の頻発や都市気候の変化に対する熱中症予防などの危機管理対策としても注目されている. 気象と疾病の因果関係の分析結果に基づくサービスとしては, 医学気象予報が良く知られているが, これは, 疾病や体調変化の危険度予報をメディアを通じて提供するものであり, 国土環境株式会社の提供するバイオウェザーニュース等, 既にビジネスとしての事例がある. これは, 統計的手法やデータマイニング手法を用いて疾病発症に対する気象要因の分析を行い, 気象予測により発症の危険度を求め, 予防情報として提示するサービスである. 医学気象予報に関する先行研究の多くは, データを統計的に分析することで気象と疾病との相関を導くもので, アンサンブルを取ることによってノイズの影響を低減させ, 弱い因果関係を発見しやすくする. 一方で, このアーティファクトとして時間的な変化を伴う関係性が見えにくくなる. 即ち, 複数の気象要素の時間変化に起因すると考えられる疾病に関しては, より直接的な関係性を分析することが難しいといえる.
 また, 医学気象予報サービスは多くの人々に当てはまるように一般化された情報として提供されることが多い. また, サービスの享受は, 個々人がそれぞれの生活スタイルに合わせて行うものであり, その情報の活用, 即ち予防対策は個人に委ねられている.

 

これを更に個人対応の情報提供とし, 予防対策も含めたトータルサービスとして昇華させるためには, 新しい枠組みを構成する必要がある. 即ち, 医学気象予報による健康維持対策の自動化である.
 情報社会システム研究所では, 伊藤・佐藤を中心として, これまでに人が実現する技能や自然界の因果関係をデジタルアーカイブするためのナレッジマネジメント手法を研究開発し, ユーザーの知的行動をサポートしつつ統合的な情報処理を行うためのプラットフォームとして様々なアプリケーションに適用してきた. それらの知見を活用し本研究開発では, 名古屋市の救急搬送データと 1 時間毎の名古屋気象台の気象データから, データマイニング手法により, 疾病予防型制御に必要な発症を有意に増加させる時間的因子を推定する方法論を提案し, その推定値を基に屋内環境を制御するエアコンを研究開発する. 最終的には, 既往症や個人の環境特性の違いを考慮し, 複数の疾病に対応可能なエアコンの制御方法を構築する. これは, 各疾病の発症傾向を先の分析手法を用いてモデル化し, そのモデルに各時点で計測した気象要素を適用し, その結果導かれる発症予測値を求め, 予測値が減少する方向へ環境制御値を変化させることで実現できる.  三洋電機と日本福祉大の共同実験契約の下, 福祉大がエアコン制御データの生成, 三洋電機が実機への実装と制御性能の検証を担当し, 現在は, 福祉大側の制御データ生成が終了し, 三洋電機側で実装の準備を行っている段階である. 今後は, 制御性能の検証結果に基づき, 発症予測モデルのパラメータの若干の修正を行い, 最終的に来シーズン製品の段階で実機への搭載を目指す予定である.

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疾病予防型エアコンの最終構成
疾病予防型エアコンの最終構成

発症予測分岐とエアコン制御カーブの一例
発症予測分岐とエアコン制御カーブの一例


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