研究報告

震災時の安否確認システムの実用化についての研究 研究代表者:大場 和久
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2. 到達レベルの評価
 システムを実用化するためには, システム自体の性能の向上とその評価, システム利用による便益分析, コスト分析, 電波法や個人情報の取り扱いなどの問題解決が必要となる. 本研究では, 実用に堪えうる安否確認システムの構築と費用便益分析を行う計画であった.
 実用化を見据えたシステム構築については, 以下のからのように, ほぼ計画通り研究を進めることができた.
     
  1. 通信のデジタル化にあたって, トランシーバや回路を何種類か用意し, 信号の過渡特性を実験により明らかにした. 手に入れやすいトランシーバ, 電子部品を選定し, それに合った OSI モデル第 2 層のプロトコルを考案した. アナログ信号をデジタル信号に変復調する方式として, バーコードの読取りに利用される方法を採用した. ここで行った実験や解析は通信機器としての基本的な性能に関わる内容であり, 以下のシステム構築上の制限条件となるため, 研究としての価値はないが, ほぼ 1 年の期間をかけて実験を繰り返した.
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  3. 送受信のためのアルゴリズムとして, 送信機 (以下, 子機) から信号をランダムに送信する方式で実験を行った. この方法は, 2000〜2002 年にかけて卒業研究のテーマとして, コンピュータシミュレーションを行ってきたものであり, 安否情報の収集可能な子機の台数は 1 時間あたり 180 台である. そのため, 周波数バンドを分割して利用する方法について解析したが, 混信や住宅密集地での利用の困難さから実用化は難しいと判断した. 最終的に, 無線通信方式として IEEE802.11b に規定されているポーリングに近い方法を採用することとした. その結果, 1 時間で子機 1800 台と送受信できるシステムを構築できた.

 

  1. 2.の通信方式に合わせて, 通信制御のためのプログラムを開発した.
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  3. 子機のバッテリーについての検討を行った. 一年に一度の電池交換で, 非常時には最低 24 時間の稼働を目標に, 省電力化とそのアルゴリズムの考案, 実験を繰り返した. それまでに作成した子機では条件をクリアできなかったため, 子機を大型化することで解決を図った. それぞれの段階に合わせて子機内部の回路のデザインを行い, いくつかの試作を行った.
  4. 性能評価のための通信実験を行った. 特定小電力無線で想定していた通信距離の 200m での送受信に成功したが, 障害物が多いなどの電波状況の悪い環境では200m 以内でも送受信できなかった.
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  6. 5.の問題を解決するため, 子機間でのアドホックネットワークについてアルゴリズムを試験的に考案し, 簡単な実験を行った. ただし, この方式を取り入れることで設置可能な子機の台数が少なくなるため, アルゴリズムや条件の設定を精査しなければならず, アドホック通信については実用的な段階ではない.
 試作したシステムでは 1 台の子機との送受信にかかる時間は 2 秒弱であり, で述べたように 1 時間で約 1,800 台の子機の情報を収集できる。 都市域では人口密度が高く, 東京都杉並区高円寺のように 25,000 人/km2 を越える地域もある。 試作したシステムの親機 1 台がカバーする範囲を半径 200m と考えると, 25,000 人/km2 の地域では 3,140 人が居住していることになり, 1 世帯当たり 1.57 人で計算すると 2,000 世帯となる。 本システムは住宅密集地域においても 1 時間強の受信時間で安否情報の収集が可能である。
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Copyright(C):2006, The Research Institute of System Sciences, Nihon Fukushi University