高齢者に優しい多目的車椅子を目指して

情報社会科学部 教授・工学博士 山羽 和夫

 最近, 情報環境学ということばが使用されるようになってきている. この情報環境学1) とは“もの"と“こころ" を切り離した学問で, これまでの物質科学を駆使して, ひたすら“もの" 側から解明を図ろうとした学問 (この学問では物質的豊かさは得られるが, 地球環境破壊をはじめ, 精神的な荒廃が出る) に替わって脳における物質と情報との等価性などを手掛かりにして“こころ" の領域に拡張する学問である.
 21 世紀は超高齢化の社会といわれているが, この社会では高齢者の "こころ" の領域に拡張する学問の探求や技術開発が必要不可欠である. このような社会に対して現在の若いお宅族が熱中しているゲームソフトウェアではいくら探求しても高齢者に優しい“もの" と“こころ" はほとんど生まれてこない. 高齢者に優しい技術とは福祉社会を支える技術のなかで高齢者の生命・生活の質いわゆるQOL (Quality of Life) の向上であり, 健康管理・障害や病気の克服し, 生きがいを求めて快適な生活 (アメニテイ) を実現させることで初めて優しい高齢社会を作ることができるものと思われる.
 日本福社大学情報社会科学部山羽和夫研究室では平成9年4月にグローバルウェルフェアテクノ構想を発表2) して以来, 高齢者の社会活動支援のマクロな技術的問題点を追求してきた. さらに平成9年3月には高齢者の社会活動支援用福社機器として (株) テクノスの田辺誠三氏および鈴木正幸氏の協力のもと高齢者に優しい多目的車椅子の開発に着手した.


 電動タイプでない折り畳みの可能な簡易型の車椅子としては国内ではこれまで例えば日進医療器(株),(株)フジワラよりそれぞれ旅行用車椅子が発売されている. 日進医療器(株)は航空機の座席上部のバックに収納できるワンタッチ型車椅子を約 10 万円で, また,(株)フジワラは平成7年度の国の補助金を得てカーボン繊維を使用したFRP (強化プラスチック) の超軽量スーツケース型車椅子を 15万 円で提供 (月産約 100 台) している.
 こうした先行メーカはそれぞれの確固たる車椅子の開発研究の末, それらの商品化を実現しており, 後発の我々にとっては先行メーカの仕様をはるかに凌ぐ必要性もあり, 以下に示す6つの新しいコンセプトを車椅子の開発目標として盛り込むことにした.
 1 あくまでも高齢者用であること.
 2 折り畳みのワンタッチを目標とする.
 3 軽量である.
 4 キャリアカートと車椅子にできること
 5 キャリアカートとして使用していると
   きは車椅子であるイメージがないこと
 6 発売価格は2万円前後に抑える.
また, 開発にあたってのスローガンとして Less is more! (Simple is best.とほぼ同義) をあげ, 田辺, 鈴木氏らとの数回の打ち合わせにより, プロトタイプの車椅子の設計に入った.
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