36℃の言葉。あなたの体温を伝えてほしい。 2011年度 日本福祉大学
第9回 高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集
学長メッセージ
審査員の評価と感想
入賞者発表
第1分野 人とのふれあい
第2分野 あなたにとって家族とは?
第3分野 わたしが暮らすまち
第4分野 社会のなかの「どうして?」
学校賞
 
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入賞者発表
第2分野 あなたにとって家族とは?
優秀賞 ゴツゴツした父の手
立命館慶祥高等学校 1年 塚窪 裕梨

 「チャッチラチャー」聞きなれた携帯の着信音。この着信音が鳴ると父の顔つきが一瞬かわる。真夜中でも父はこの着信音が鳴ると急いで家を出ていく。父は救急医療をする麻酔科医。外科医とは違い手術の時、手術室には入るが患者さんには直接何もしない。
 だからいつも患者さんは手術の後外科医にはお礼の言葉を伝えたりするが父には何もない。娘の私はいつも「父の頑張りもわかってよ!」と思ってしまう。
 私は人前で目立ったり、誰かにお礼を言われるのが好きだ。いい人だなぁって思われたいからその人に直接、はっきりわかるようになにか親切なことをしたくなる。「ありがとう」も言われないのに頑張るなんてできない。
 だから父が真夜中でも病院にいって朝までずっと働くという仕事を何十年と一生懸命頑張り、続けられることが不思議でたまらない。朝、病院から帰ってきた父にそのことを聞いてみた。
 「お父さんはパイロットなんだよ。」えっ。仕事で疲れて頭がおかしくなったのかと思った。困惑している私を見て父は笑いながらこう続けた。
 「麻酔科医はパイロットと同じ。乗客、つまり患者さんと顔を合わせることがない。でも、大事な命をあずかっている。乗客の旅、これから新たな命を生きていこうとする患者さんの旅をサポートすることがお父さんの仕事なんだよ。カッコイイだろ。」
 カッコイイ…。いつも疲れてさえない父とは全然違った。
 父の手はゴツゴツで、ちょっと温かい。その手のひらで、沢山の命を救ってきた。そのぬくもりなのかもしれない。
 客室乗務員になりたかった小さい頃の私。「ありがとう」の言葉よりもっと大切なものがある。パイロットと乗客、麻酔科医と患者。そこにはみえない糸がありそれは重く温かく、絶対に切れない。私もその糸を沢山の人とつなげて大きな輪をつくりたい。そこには、お礼を直接言わなくても伝わるものが…。

講評

 手術を行う時のサポート体制の中で重要な役割を果たしている「麻酔科医」のお父さんを取り上げている視点の新しさに魅かれました。そして、「麻酔科医はパイロットと同じ。(略)カッコイイ…」の部分が、意外性があって、とても良かったです。作者がお父さんを大好きで、尊敬している気持ちがよく伝わってきます。また、「私は人前で目立ったり、誰かにお礼を言われるのが好きだ」のように、自分の素直な気持ちがアクセントになっていて、ストレートに感動が伝わってくるところもいいと思います。こうした作者独自の表現に魅力を感じて、高い評価となりました。

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