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「ふくし」を思う

研究・教育活動、地域連携・社会貢献の取り組みを紹介します。

講演録

静岡県地域同窓会 大学セミナー「ホームレス問題からみた日本の貧困」山田 壮志郎准教授 日本福祉大学社会福祉学部

講演録 「ホームレス問題からみた日本の貧困」

  • 講師:
    山田 壮志郎准教授(日本福祉大学社会福祉学部)
  • 日時:
    2017年 9月 9日(土)
  • 会場:
    レイアップ御幸町ビル

※所属や肩書は講演当時のものです。

1.ホームレス数の推移と社会の動向

 ホームレスが抱えている問題は、日本の貧困問題を象徴的に表しています。ホームレスとは住居がない人たちのことですが、住居がないということは、寒さ暑さや雨風をしのぐ場所がないということと同時に、社会の中での存在証明がないということも意味します。

<ホームレス数の推移>

(資料)
  • 厚生労働省「ホームレスの実態に関する全国調査(概数調査)」各年版
  • 名古屋市資料
  • 藤井克彦・田巻松雄(2003)『偏見から共生へ』風媒社

 2017年現在、厚生労働省の調査によると、日本にはホームレスと呼ばれる人たちが5534人います。傾向としては、1990年代前半から徐々にホームレスが増えはじめ、1997~1998年を境に激増し、2003年ごろにピークを迎えて約2万5000人となり、その後は減少傾向にあります。ただ、ホームレスの数は、全国の市町村の職員が街中で一人一人をカウントした結果なので、正確な数を出すのは難しいです。東京の民間グループの調査では、深夜に都内を回ると、行政発表の約3倍のホームレスが確認されたというデータもあります。したがって、少なくとも5534人は存在していると理解するのがいいと思います。

 ホームレスが増加した1990年代後半は、日本において貧困の問題が広がっていった時期と重なります。日本の相対的貧困率は、1980年代ぐらいまでは12~13%で推移していましたが、1997年あたりからぐっと高まって、その後は15~16%で推移しています。被保護人員(生活保護受給者)の数も、高度成長期を通じて減少傾向にありましたが、1996年から増加に転じ、そこからは増え続けています。特に2008年ごろに急激に増えています。これはリーマンショックによって派遣切りに遭う人が増えたからだといわれています。

<非正規雇用比率と平均所得>

(資料)非正規比率:総務省統計局「労働力調査」、平均所得:厚生労働省「国民生活基礎調査」

 1990年代後半から日本で貧困が広がった一番大きな要因は、非正規雇用が増加し、雇用が流動化していったことです。特に1990年代半ばから派遣労働者に対する規制が緩和され、非正規雇用の割合が増えていきました。それまでは全労働人口のうち2割に満たなかったのですが、現在では4割近くになっています。非正規雇用職員は正職員に比べて給与水準が低く、ボーナスや各種手当てもない場合が多いので、どうしても所得水準が低くなる傾向にあります。非正規雇用の増加とともに、1世帯当たりの平均所得も、1990年代半ばの約660万円から、2000年代半ばには約560万円まで下がっています。

2.なぜ失業と野宿が結び付くのか

 日本のホームレスにはどんな人が多いのでしょうか。性別は男性が95%で、年齢は50代・60代の中高年層が約70%を占めています。海外では若いホームレスや家族のホームレスもいますが、日本の場合は中高年男性がホームレスの中心になっています。

<路上生活を始めた理由(%)【複数回答】>

(出典)厚生労働省「ホームレスの実態に関する全国調査(生活実態調査)2012年版」

 ホームレスが野宿に至った理由として多いのは失業です。中高年男性のリストラ問題が社会的に注目されたのが1990年代後半だったので、中高年男性が失業を原因としてホームレスになったというのは何となくつながる話だと思います。しかし、学生たちにとっても、こういう時代ですから、自分の両親が明日失業してしまうかもしれないということは何となく想像できても、ホームレスになるかというとピンとこないかもしれません。なぜホームレスは、失業して家まで失ってしまうのか。そのことを理解するためには、ホームレスが野宿に至る前にどんな仕事をしていたのか、どんなところに住んでいたのかを見ていく必要があります。

<野宿直前の仕事と住居】>

(出典)厚生労働省「ホームレスの実態に関する全国調査(生活実態調査)2012年版」

 国の調査によると、ホームレスが野宿になる直前に従事していた仕事の職種は、建設・採掘従事者が46%、生産工程従事者、つまり工場のラインの仕事などに従事していた人が14%と、一般の産業構成と比べて非常に高い割合です。雇用形態は、正社員が42%と多くなっていますが、日雇いが25%、臨時・パート・アルバイトが24%と、不安定な非正規雇用が半分を占めています。これも一般の産業構成からすると割合が高いですし、特に日雇いの割合が25%を占めているのは非常に特徴的です。

 ホームレスの問題を理解するとき、「建設日雇い労働者」は大事なキーワードになります。日雇い労働者は、寄せ場に行って建設関係の仕事を探し、1日現場で働いて、日当をもらって、ドヤに泊まり、また次の朝寄せ場に行って仕事を探すという生活を繰り返しています。ドヤとは、1泊1000円や2000円で泊まれる簡易宿泊所です。不況になって建設関係の仕事が少なくなったり、高齢になって寄せ場で声が掛からなくなったりすると、仕事にありつけず、ドヤにも泊まれなくなり、野宿するようになります。日雇い労働者は仕事を失うことと家を失うことが結び付きやすいのです。最近でこそ寄せ場出身のホームレスは少なくなっていますが、それでも不安定な雇用形態と不安定な住居が結び付くと、失業による住居喪失リスクが高まっていくというのは今日でも共通しています。例えば、2008年のリーマンショックで多くの派遣労働者が派遣切りに遭い、社員寮を追い出され、住む場所がなくなった人々が年越し派遣村に集まってきたことが社会的にも注目されました。

3.ホームレス問題とは何か―関係性の喪失―

 今の社会で人がホームレスになるのは、そうよくある話ではありません。ホームレスの方と話をしていると、単に仕事を失って住居を失ったということではなく、それぞれが友達の借金の保証人になった、離婚した、自殺未遂をした、刑務所に入ったなどの人間ドラマを経てホームレスに至ったことがよく分かります。その過程の中で、友達とのつながり、家族とのつながり、社会とのつながりを失ってきたことを見落とすべきではありません。これがホームレス問題をより複雑化させているのではないかと思います。

 私は「ささしまサポートセンター」という団体でホームレスの支援活動をしており、元ホームレスで、生活保護を受けながらアパート生活をしている人を対象とした生活実態調査を毎年行っています。物質的な面、精神的な面でサポートをしてくれる人がいるか聞くと、やはり多くの人はいないと答えます。子どもがいる方の子どもとの交流の頻度は、全くない人が84%です。友達や親戚、近所の人と交流する頻度も、半分ぐらいの人は全くないと答えます。仕事を失って住居を失っていく過程の中で途切れた社会との関係や人間関係は、たとえホームレス状態を脱却しても取り戻せていないのです。

包摂的支援研究会(2012)「アパート生活をしている人の暮らしに関するアンケート」

 そのことが影響しているのかどうかは分かりませんが、精神健康調査票(GHQ:General Health Questionnaire)という尺度を使って、同じく元ホームレスの方の精神的な健康状態を測ると、60%がリスク群に該当します。日本人の一般男性では15%ですから、高い割合です。元ホームレスで生活保護を受けながらアパート暮らしをしている人たちは、精神的な健康がむしばまれている人も多いということです。

 野宿生活は過酷ではありますが、周りにホームレスの仲間がいて、困ったときには助け合うコミュニティがある場合もあります。ところが、生活保護を受けてアパート生活に移ると、確かに野宿ではなくなりますが、周りに友達がいるかというとそうではなく、仕事があるかというとなかなか見つかりません。特にやることもないので、昼間街の中をぶらぶら歩いていると、「あの人はいい年して、昼間から何でぶらぶらしているのか」と白い目で見られ、アパートの中にこもるようになり、社会で孤立してしまいます。実際、支援活動を行う中で、ホームレスの方にやっとアパートに移ってもらうことができても、突然いなくなってしまう方が時々います。家主から未払い家賃の連絡を受け、残された家財を処分していると、自分たちがやってきた活動は何のためにあるのかという虚無感に襲われることもあります。

 このことから、かつては支援のゴールを、ホームレスが家で暮らせるようになることだと設定していましたが、ひょっとしたらそれはゴールではなく、ホームレスが新しい地域生活をつくっていくスタートラインなのではないかと考えるようになりました。そこで、ささしまサポートセンターでは、元ホームレスがアパート生活に移った後に孤立しないための支援活動として、月に1回の交流会、お金を積み立てての旅行、花見などを行っています。

※この講演録は、学校法人日本福祉大学学園広報室が講演内容をもとに、要約、加筆・訂正のうえ、掲載しています。 このサイトに掲載のイラスト・写真・文章の無断転載を禁じます。

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