発達障害から考える
人が力を発揮できる条件
「わかっているけれど、できない」という経験を、多くの人がしたことがあるのではないだろうか。仕事や課題に取りかかれず、忘れてはいけないと注意していたことを忘れてしまう。そんな時、「わかっていたのに、なぜできないのだろう」と落ち込むこともあれば、他人の場合には「どうしてわからないの」と思ってしまうこともあるだろう。しかし、「わかっている」と「できる」の間には、思っている以上に大きな隔たりがある。
発達障害は、医学的には「神経発達症」と呼ばれることもあり、脳の発達特性によって、もののとらえ方や行動、コミュニケーションなどに特徴があらわれる。そのあらわれ方は一人ひとり異なり、この「わかっている」と「できる」の隔たりを、さまざまな場面で繰り返し経験してきた人もいる。今しなければならないこともわかり、努力や工夫もしてきた。それでも特性によって、思うようにできないことがある。周囲からはその困難が見えづらく、「わかっていない」「やる気がない」と否定されてしまうこともある。そうした経験は、本人が「できない」自分を責めることにもつながる。
そこで大切なのが「自己理解」である。自己理解とは、単に障害を知ることではなく、どのような場面で困り、どのような方法なら力を発揮できるのかを知ることである。例えば、ざわざわした環境では指示が聞き取りにくかったり注意がそれやすかったりする場合、ヘッドセットや文字での指示によって力を発揮しやすくなることがある。自分の特徴を理解すれば、「なぜできない」と自分を追い込まず、適切な方法を考え、学校や職場にも提案できる。
自己理解に基づく工夫に加え、重要なのが「合理的配慮」である。障害のある人が学び、働く際に必要な調整を行う考え方で、2024年4月からは、民間事業者にも合理的配慮の提供が義務づけられた。合理的配慮は「困っている人を助ける」だけでなく、その人が能力を発揮できる条件を本人と周囲が探すことでもある。
そこで「できた」という経験が「自己効力感」にもつながる。自己効力感とは、「自分にはできる」と感じることである。つまずいた時、「もっと頑張れ」と求めるのではなく、わかりやすい伝え方や安心できる環境を大人が考える。自分に合った方法を知り、「できた」経験を積むことが、次への意欲や必要な配慮を相談する力につながる。
「できない人」を変えることだけに目を向けるのではなく、「できる条件」を一緒に探す。その視点は、発達障害のある人のためだけではない。誰もが「わかっているのに、できない」ことを抱えて生き、働いているからこそ、自分を理解し、環境を工夫して、力を発揮できる社会を考えることが大切なのではないだろうか。人によって得意なことも、力を発揮しやすい環境も違う。その違いを認め、一人一人の力を生かしていくことが、多様性を尊重する社会につながるのだと思う。
- ※この原稿は、中部経済新聞オピニオン「オープンカレッジ」(2026年9月16日)欄に掲載されたものです。学校法人日本福祉大学学園広報室が一部加筆・訂正のうえ、掲載しています。このサイトに掲載のイラスト・写真・文章の無断転載を禁じます。