• コラム

知的障害者の大学教育を拓く

知的障害者の大学教育を拓く

意欲に応えるインクルーシブな教育環境を

 2014 年「障害者の権利に関する条約」の批准を契機として、文部科学省を中心に障害者の生涯を通じた学習活動の充実に向けた取り組みが活発化している。19年、文部科学省により公表された「障害者の生涯学習の推進方策について-誰もが、障害の有無にかかわらず共に学び、生きる共生社会を目指して-(報告)」では、障害者の生涯学習推進の方向性に加え、大学における知的障害者の学びの場の創出についても言及されている。

 しかしながら、とりわけ日本における知的障害のある生徒の高等教育機関進学率は、障害のない生徒の進学率と比べて非常に低い現状がある。25年度、学校基本調査における特別支援学校高等部卒業後の進路を見ると、大学・短大、高等部専攻科などへの進学率はわずか 0.5%にとどまっている。その背景には、知的障害者の多くは学校を卒業すると、就職や社会福祉施設などへの入所・通所が一般的になっていることが考えられる。学習ニーズや学びたい意欲のある障害者に対して、大学などの高等教育機関における学びの場の創出は検討すべき課題ではないだろうか。

 米国に目を向けると、知的障害者を受入れる大学がほとんどない状況から、08年「高等教育機会法」の施行を契機として、大学で学ぶ知的障害者が増加している。同法では、知的障害者の高等教育機関へのアクセスを増大させることを目的としたモデル実証プログラムの創設が規定されており、全米組織であるThink College による「知的障害者のための移行と中等教育後プログラム(TPSID)」が開始されるなど、知的障害者が大学にアクセスしやすくなっている。

 23年度には、全米の大学・短期大学の41のTPSIDプログラムで557人の知的障害者が学んでおり、近年は知的障害者が障害のない学生と共に学ぶインクルーシブな教育環境を提供する大学が増えている。大学で学ぶ知的障害者は、所定のプログラムの一定の基準を満たすことで連邦政府から奨学金を得ることも可能となっている。各大学によって提供されるプログラムは多様であり、多くは非学位の聴講という形であるが、単位や学位、資格の取得を目指すプログラムもある。

 知的障害者も大学生としての身分が保障され、大学のキャンパスコミュニティのなかに学生として包摂(ほうせつ)されていることが特徴である。障害学生支援室の活用、他の学生が大学生活の相談相手になるピアメンター制度の活用、大学のアクティビティへの参加、学生寮への入寮、就労支援など、支援体制も構築されている。

 障害の有無にかかわらず学びたい意欲は同じである。米国の状況も参考にしながら、障害の有無にかかわらず、学びたいと願うすべての人たちが学べる場、学びの機会を提供することが必要である。大学は教育資源が充実しており、障害者の学びの場として有力な選択肢である。障害者の生涯学習支援推進政策と連動させ、知的障害者の大学教育を拓くことが望まれる。

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水野和代 スポーツ科学部講師

  • ※この原稿は、中部経済新聞オピニオン「オープンカレッジ」(2026年2月18日)欄に掲載されたものです。学校法人日本福祉大学学園広報室が一部加筆・訂正のうえ、掲載しています。このサイトに掲載のイラスト・写真・文章の無断転載を禁じます。

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