研究報告

震災時の安否確認システムの実用化についての研究 研究代表者:大場 和久
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 なお, 1 世帯当たりの人数は, 東京都杉並区平成 17 年 3 月 1 日現在の 「町丁別世帯数及び人口」 より高円寺北, 高円寺南の人口と世帯数より算出した。
 システム導入の費用便益分析については, 東浦町で各戸に設置されている同報無線についての調査を行い, 本システムと比較した.
 従来の同報無線は公園などに設置されており, 雨や風の影響, 遮音性の高い住宅の普及などで, 非常時に津波や地震警報などの重要な情報が伝達されないことが考えられる. そこで, 東浦町では住民に対して停電時にも確実に情報を伝達するため, 同報無線を各戸に配布した. 配布した受信機は配布開始当初は 1 台あたり 4 万円程度であったが, ほぼ全戸に配布し終わった現在は 3 万円程度まで価格が下がっている (2005 年 12 月の東浦町へのインタビュー調査).
 本システムは試作段階で, 電子部品やトランシーバなどの機器が 2 万円程度, 組み立てに要する時間が 10 時間程度であった. 数千台規模での導入の場合, 部品費用が 1 万円程度, 制作にかかる時間が 3 時間で計算すると, 1 台あたり 2 万円程度となる. 数十万台, 数百万台規模になれば, 更にコストは低くなり, 1 万円以下での導入が可能となる. また, 通信にポーリング方式を採用したことで, 子機に受信機能を備えており, 通信にはアナログ信号を用いているため, 同報機能を持たせることができる. ただし, 屋内で同報による放送内容を聴くためには, 設置工事が必要となるため, 費用としては東浦町と同程度となる.
 本システムは安否確認機能を持っているため, 同報無線機能を付加すれば便益は東浦町のシステムよりも大きくなる. それに対し, 価格は同程度で抑えられる.
 本研究では子機を数十台用意しての社会実験を行うことを予定していた. 愛知県江南市に対して実験の協力を求めたが, 防災コミュニティ (数百世帯) 一つをモデルケースとして実験を行うことを条件とされ, 実現で

 

きなかった. 安否確 認システムを導入することによる安心感や防災意識の高まりなどの便益解析のためは, 社会実験を行う必要がある. この点は, 2005 年 12 月に発表した国際公共経済学会でも, 何人もの研究者から指摘を受けている. 情報社会システム研究所の研究課題としては 2005 年度で終了であるが,2006 年度以降も社会実験を目指して研究を続ける.

3. 論文投稿, 研究発表
 本研究を行い, 以下のように論文発表, 研究発表を行った.
<参考文献>
  1. 大場, 柳本: 「震災時の安否確認システムの実用化についての研究」, 日本福祉大学社会システム研究所ニュースレター, No. 11, pp. 17−18 (2004)
  2. 大場, 柳本, 西村: 「震災時の安否確認システムの実用化についての研究」, 日本福祉大学社会システム研究所ニュースレター, No. 12, pp. 4−8 (2005)
  3. 西村, 大場, 柳本, 渡邊: 「災害発生直後における意思決定支援のための情報収集システム」, 第 49 回システム制御情報学会研究発表講演会講演論文集, pp. 339−340 (2005)
  4. 大場, 西村, 柳本: 「震災対策のための情報システム」, 国際公共経済学会第 20 回大会, pp. 34−39 (2005)
  5. 大場, 西村, 柳本: 「震災対策のための情報システム」, 国際公共経済学会論文誌 (投稿中)
  6. 西村, 大場, 柳本: 「災害時における安否情報収集のための通信プロトコルの提案」, 電子情報通信学会 2006 年総合大会, B−7−7 (2006)
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Copyright(C):2006, The Research Institute of System Sciences, Nihon Fukushi University